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ひきわり  作者: 夏乃市
第四章 八千穂事件
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八千穂事件 23

 舞台から飛び降りた八千穂は、生徒たちの間を抜け、体育館の後ろへと走った。その後を鶴牧が追う。

 毅瑠は二人を目で追いながら、自分が抱えている髪の束へと意識を集中した。

〈夢飼い〉――それは、人の夢を飼い慣らす者――向井という名前は、〈夢飼い〉の一族の末裔ではないか――初めて八千穂と出会ったとき、そんなことを言われたことがあった。しかし、まさか本当に〈夢飼い〉の力を手にいれることになるとは思わなかった。

 毅瑠の手には、数千本の髪が巻き付けられている。それは体育館中の人の〈魂の要〉に繋がっている。これも剣〈髪逆〉と同じで、八千穂が使う限り、直接人体に傷を与えることはない。毅瑠は、なんとかこれを維持しなければならなかった。

 能力が身についたからといって、説明があるわけではない。しかし、髪束に導かれる感触があった。毅瑠はそれを感じるままに、〈魂糸〉の維持を行っていた。この奥義〈髪逆〉に込められた〈魂糸〉は、八千穂のそれではなく、神坂家の祖先たちのものだ。それが毅瑠を導き、〈魂糸〉を維持しているのかもしれなかった。

 その証拠に、さっき髪束から意志が伝わってきた。それぞれの髪は人の〈魂の要〉に繋がっているのだから、当然そこから意志が伝わってくる。その対象があまりに多いため、毅瑠はどれが誰だか判別ができずにいた。しかし、その意志だけははっきりと伝わってきた。剣一対を一本にしろと――

 それは生徒でも、教員でもありえない。八千穂の祖先の誰かの意志に違いなかった。

 そうして指摘されて初めて、毅瑠は安易に〈神逆左の剣〉を八千穂に渡した自分のうかつさに戦慄した。〈神逆左の剣〉は〈魂糸〉の能力を解放し、固定する。八千穂がそれで鬼の〈魂の要〉を貫いた場合、さらなる力を鬼に与えてしまう可能性があったのだ。

 しかし、神坂家の祖先たちの意志が「一本にしろ」と言うのだから、そうすれば打開する力になるはずだ。間違っても八千穂の不利になることはないだろう。

 鶴牧と距離を取った八千穂が、体育館の隅で苦労していた。剣〈髪逆〉と〈神逆左の剣〉を一本にする方法で悩んでいる――

 意志が伝わるということは、こちらの意志も伝えられるということだ。毅瑠は、髪束に宿る代々の〈霊鬼割〉の〈魂糸〉に願った。八千穂の力になってくれと。そして、そこに自分の〈魂糸〉を込めた。

 髪束の中の一本が、八千穂へと伸びた。

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