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ひきわり  作者: 夏乃市
第四章 八千穂事件
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八千穂事件 21

〈魂見鏡〉を使って鶴牧を見たとき、〈魂の要〉は確かに右目の位置にあった。八千穂の剣〈髪逆〉は間違いなくそこを貫いた――

「魂の糸……。ふん、なるほど。そういうことか……」

「人の命に手を出すようになったお前は、鬼だ」

「鬼? では、お前はなんなのだ」

「私は〈霊鬼割〉だ。鬼を狩る者」

「ふん。俺には、俺もお前も同じに思える。まあ、どうでもいい。生き残るのはどちらか一方……そういうことだな?」

「……」

 鶴牧の〈魂糸〉による攻撃が始まった。八千穂は応戦するが、剣〈髪逆〉が短くなっているために分が悪い。しかも、体育館中の人間に繋がっている髪が、ここに来て邪魔になっている。

 奥義〈髪逆〉を解いてしまえば良いのだろうが、それをやると、後々生徒や教職員を施術するときまで、彼らの〈魂糸〉の麻痺が維持できるかどうかがわからない。それができなければ、この作戦は成功したとはいえないのだ。しかし、鬼が施術できなければ、そもそも成功がない――

 毅瑠はポケットから袱紗にくるまった〈神逆左の剣〉を取り出すと、袱紗を開いた。白く輝く小さな剣を右手に握る。

〈夢飼い〉――自分にはその才能があるという。これを〈魂の要〉に突き立てればその力が手に入る。八千穂と共に生きると決めたのだ。今こそ、その力が必要なときだ――

 昨日〈魂見鏡〉で自分の〈魂の要〉の位置は何度も確かめた。毅瑠は〈神逆左の剣〉を自分の左胸にあてると、力を込めて突き立てた。

「がっ……」

 痛みで毅瑠は膝を付いた。手が僅かで止まる。夏服の胸に血が広がった。

 弦悟に厳重に注意されていたことがある。この〈神逆左の剣〉を〈魂の要〉に突き立てるのは〈霊鬼割〉、つまりは八千穂でなければならない。そうでなければ、体を傷つけずに〈魂の要〉だけを貫くことはできない――

 しかし、現状で八千穂にその余裕はなかった。そして、一瞬の猶予もない。毅瑠は自らそれを行うことにした。怪我は――あとから治せばいい――

〈神逆左の剣〉はどれくらい入ったか――まだ届かないか――痛みに耐えながら毅瑠がそう考えたとき――衝撃が走った。

 頭の上から、下まで、体中の〈魂糸〉に走る閃光。かつて八千穂に施術をしてもらったときの数百倍の感覚――体中の知覚が解放し、光や、音や、感触が痛みとなって毅瑠を襲う。あまりの痛みに、毅瑠は左胸から〈神逆左の剣〉を抜いた――そして――唐突にそれは終わった。

 毅瑠は辺りを見渡した。

 舞台上では、八千穂と鶴牧の攻防が続いている。〈魂糸〉と剣〈神逆〉のつば迫り合いが行われている。

 世界は――毅瑠の見る世界は、姿を変えていた。〈魂見鏡〉を使っていなくても〈魂糸〉が見える。そして、それを操ることができる確信が、毅瑠の中にあった。操れるなら――

「チホ!」

 毅瑠は立ち上がると、八千穂へと駆け寄った。

「毅瑠?」

「生徒たちの分を俺によこせ!」

 説明している暇はなかったが、八千穂は毅瑠の意図を悟ったようだった。剣〈髪逆〉を振るうと、自らの髪をばっさりと切り落とした。

 毅瑠は八千穂が切り落とした髪の束を左手で掴むと、右手の〈髪逆左の剣〉を八千穂へと投げた。

「〈かみさか〉はそれで一対だ!」

 八千穂はそれを受け取ると、二刀で剣を構えた。

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