八千穂事件 18
金曜日。八千穂が、毅瑠が、綾音が、夏目が、それぞれに授業をサボった翌日。六時限目に緊急の生徒集会が組まれた。
四月の〈銅像生け贄事件〉のときも、同じように緊急の生徒集会が開かれたことがあった。事件の噂話に拍車がかかり、八千穂に対する嫌がらせがあったことで、夏目がキレたのだった。
しかし今回は、中途半端で終わってしまった始業式の続き、という位置付けだった。体育祭と文化祭について、生徒会からの説明が行われないままになっている。
この日毅瑠は、朝からまじめに授業を受けていた。そして休み時間には、教職員たちへの生徒会からの連絡に奔走した。
今回の生徒集会で、学園始まって以来の提案をします。是非、学園中の人に聞いて欲しい――
今日も八千穂は登校していなかった。
学園は穏やかで、何事もなかったように六時限目を迎えた。
「今日の集会は向井君の提案よ。だから、あなたに預けるわね」
体育館の舞台袖に集まった生徒会のメンバーを前に、夏目が言った。
始業式で伝え損ねた生徒会からのお知らせ、それは本来、わざわざ集会を開くほどの内容ではなかった。体育祭と文化祭の日程。それに伴う、準備や予行演習の日程。そして、各実行委員の紹介――その程度なのだ。後日プリントでも配布すればそれで終わってしまうような内容だ。
毅瑠は昨晩、夏目に電話をかけた。そして、この臨時の生徒集会を開催したい旨を相談した。夏目は毅瑠の意志が固いことを確認すると、了承したのだった。
「一時間もやることがないぞ」道生が言う。
「連絡事項が終わったら、俺に任せて欲しい」
「神坂と鶴牧先生の件か?」と太一。
「はい」毅瑠が頷く。
「八千穂ちゃん、大丈夫かしら」希奈が心配げに呟く。
「今日も休んでいるのよね?」と綾音。
「鶴牧の奴許せないわ。あいつになら何をしても許す」と息を巻いたのは作。
「停学になるようなことは避けろよ」と締めたのが力だった。
毅瑠は全員の顔を見回すと頭を下げた。
「一昨日は、戸時会長を含め、皆さんを信用していないようなことを口走ってすいませんでした。俺、話していないことがいっぱいあります。いつも助けてもらって、なのに全部一人で背負い込んでいるみたいな気分になっていて……これが終わったら、ちゃんと話します」
ばんっ、と太一が毅瑠の背中を叩いた。
「話せないことぐらい誰にだってある。それに、男は細かいことは気にしない。一昨日のことだって、もう過去のことだ」
「私たちは女なんですけど」
作が突っ込み、どっと全員が笑った。
ぱんっ、と夏目が手を叩いた。
「さ、始めるわよ」
毅瑠はもう一度深く頭を下げると、ゆっくりと舞台へと歩き出した。