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ひきわり  作者: 夏乃市
第四章 八千穂事件
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八千穂事件 14

「男の人ってダメね」

 八千穂が飛び出していったのと入れ違いに、七穂が現れた。手の中の盆には、人数分の湯飲みが乗せられている。

「何を言っているんだ」と弦悟。

「だから、男の人は頭が固くてだめだって話です」

「それは俺のことか?」

「二人ともよ」

 弦悟と毅瑠は顔を見合わせた。

 湯飲みを配り終えた七穂は、自分もテーブルについた。そして、湯飲みに口を付ける。七穂の意図が読めない男二人も湯飲みに手を伸ばす。しばし、奇妙な沈黙が訪れた。

「あなた、本当に八千穂のことを考えてやっていますか?」

「当たり前だ」

「少しでも長生きするのがあの子の幸せ?」

 七穂は、ここまでの会話をしっかり聞いていたらしい。

「当然だ」

「そうかしら。私にはそうは思えません。大切なのは、どれだけ長く生きたかではなくて、どれだけ幸せに生きたかだと思います」

「寿命が短くなったら幸せもくそもない」

「程度問題でしょ。今すぐ命が尽きるとか、逆縁の不幸になるとか……それは困るけれど、たとえば八十年の人生が六十年になって、その方が八千穂が幸せなら、それはいいと思うんです」

「……」

「八千穂の意志を尊重した上で、可能な限りの次善策を手伝ってやることはできないんですか?」

 弦悟は言葉を失い、腕組みをしたままそっぽを向いた。

「向井さんもよ」

「はあ」

「あなたが八千穂を好きでいてくれるのは嬉しいわ。あの子も喜んでいる。でも、あなたの提案は正論だとしても、唐突で、極端だわ」

「唐突ですか?」

「そうよ。話の持って行き方次第で、同じ結論でも心証が違うの」

 七穂は含み笑いをしながら弦悟を見た。

「いい? この人は向井さんに焼き餅を焼いているのよ。娘を突然脇から取られちゃった気分なんだわ。だから、あんなに強硬に反対するの」

「おい!」弦悟が声をあげる。

「なんですか?」

「いや……」

「向井さん。あなた、もっと周りを頼った方が良いわ。あなたは頭が良くて、導き出す結論も正しいけれど、でも、それだけじゃあダメなのよ」

「随分と頼っているつもりですが……」

「あなたはそのつもりでも、肝心なところは背負い込んじゃっているわ。今、世界にはあなたと八千穂しかいないと思っていない? 二人の幸せは、二人にしかわからないと思っていない? 〈霊鬼割〉の真実は、二人にしかわからないと思っていない?」

「……」

「二人の命をまとめて、一つにして、また分ける。命って、そんな計算でどうこうしていいものじゃないわ。均等にしたから良いという問題でもない。でも、その気持ちは充分すぎるくらい伝わったわ。八千穂にも、私にも、この人にも。そして、神坂家のご先祖にもね」

「え?」

「しょうがないな」弦悟が絞り出すように呟いた。「俺は入り婿だ。神坂神社の決定権は、七穂、お前にある」

「あら、まるで私に言われて嫌々……みたいなおっしゃりようですね」

「その通りだろ?」

「八千穂のためです。なのに、そんな野暮なことをおっしゃるんですか? 私たち二人の娘でしょ?」

「そうだな」弦悟は一つ大きく息を吐くと、すっくと立ち上がった。「向井君。付いてきたまえ」

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