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ひきわり  作者: 夏乃市
第四章 八千穂事件
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八千穂事件 4

 八千穂は、涼心学園高校の正門を、少し離れたところから見つめていた。さすがに今日は制服ではない。ジーンズにブラウス。かぶり慣れない野球帽をかぶり、三つ編みは帽子の中に押し込んでいる。

 時刻は午後四時半を回っていた。授業が終わり、帰宅する生徒たちが正門から吐き出されるのも一段落付いた。今校内に残っているのは、部活動をしている生徒たちだけだ。

(さてどうしようか)

 昨日も一日こうしていたが、特に問題はなかった。今日も今のところ異変はない。明日は停学が明けるから、普通に登校すればいい――

 八千穂が見張っていたのは、生徒たちの〈魂糸〉の状態だった。あの鶴牧という教員が鬼なのは間違いない。そして、あの始業式で、〈魂糸〉を使って男子生徒をどうにかしようとした。鶴牧は自分の〈魂糸〉――見えざる力が、他人に影響を及ぼすことができることを知っている――つまり、それは鬼だ。

 あれだけカッとなりやすい鶴牧のことだ、被害者が次々と出てくる懸念があった。そうなるようなら、停学明けを待たずにどうにかしなくてはいけない、と八千穂は思っていた。だから、鶴牧の被害にあった生徒がいないか見張っていたのだ。

 しかし、別の懸念もあった。一昨日の始業式で、八千穂は間違いなく鶴牧の〈魂の要〉を貫いたと思った。しかし、効果はなかった。通常〈魂の要〉は体の中央――ほとんど心臓と同じ場所にある。あの男――鶴牧は〈髪逆〉に対して耐性でもあるのだろうか。それとも、〈魂の要〉の位置が違うとでもいうのか。つぎはぎだらけの鶴牧の〈魂糸〉は醜く、あの一瞬では八千穂には判別が付かなかった。

 確実なのは、毅瑠に〈魂見鏡〉で確認してもらうことだった。しかし、一昨日学校で別れて以降、毅瑠と連絡が取れていない。八千穂が電話しても出ないのだ。

 部活動をしている以外の生徒の大半に問題がなかったため、今日は帰っても大丈夫だろうと八千穂は判断した。しかし、毅瑠のことが気になる――

「八千穂?」

 ふいに声がかけられた。綾音だった。

「……ばれた?」

 綾音は丸く目を見開き、そして、ぷっと吹き出した。

「八千穂、それ変装のつもりなの?」

「そう」

「あはははは」

 綾音は豪快に笑った。涙が滲むほど笑った。そして、笑いが突然、涙に転じた。

「綾音。どうしたの?」

「……」

 綾音は悔しそうな顔で、八千穂にしがみついた。八千穂はただ、不器用に抱き返すことしかできなかった。

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