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ひきわり  作者: 夏乃市
第四章 八千穂事件
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八千穂事件 2

 当然のことながら、八千穂の処分を巡って職員会議は紛糾した。

 突然飛び出してきた八千穂が刃物のようなものを振り回し、挙げ句の果てに、それを鶴牧の胸に突き立てたところを、始業式に参加していた全員が目撃していた。それだけを取り上げれば、八千穂は即退学になってもおかしくない。下手をすれば、警察沙汰にまでなるような話だった。

 しかし、事態はそれほど簡単ではなかった。まず、八千穂が振り回していた刃物が何だったのか、それを誰も特定することができなかった。毅瑠に舞台袖に引っ張り込まれた八千穂は、教員たちに取り抑えられた。その時点で、八千穂は何も持っていなかったのだ。当然、八千穂と仲の良い毅瑠が隠したことが疑われ、舞台袖を中心に徹底的に捜索が行われた。しかし、結局何も見つからなかった。

「鶴牧先生を止めようと思った」教員たちの尋問に対して、八千穂はそれで通した。あまりに埒が開かず、尋問の矛先は毅瑠に向けられた。しかし、毅瑠は毅瑠で「神坂さんが、鶴牧先生に殴られると思って」としか答えなかった。

 もちろん、鶴牧は、自分が刀のような刃物で貫かれたことを主張して、八千穂の退学を職員会議で迫った。しかし、職員たちは一様に、面倒なことになった、という顔をしてため息をついた。八千穂が飛び出す前、悪口を言った生徒に対する鶴牧の態度が、なんとも教員たちの心証を悪くしていた。その場で鶴牧が何をするつもりだったのか、誰もがそれを訊きたいと思い、そして訊けずにいた。それにもまして問題だったのは、刃物で貫かれたはずの鶴牧の胸元には、傷一つ残っていないことだった。

 結局、八千穂は停学二日の処分となった。それは、刃物を振り回したためではなく、単に始業式を混乱させたため、という理由だった。

 実質的な被害者は出ず、結果的には、鶴牧が二年生の男子生徒に行おうとしていた何かを阻止することになった――最終的には学園もそう判断せざるをえなかったようだ。そこに、生徒会からの強い働きかけがあったのは言うまでもない。

 しかし――公式見解はそれで落ち着いたとしても、見てしまった者たちの記憶を消すことはできない。あれが何だったのか、生徒達の間で憶測が憶測を呼んだ。

 そして、当該の鶴牧も、納まりが付こうはずがなかった。

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