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ひきわり  作者: 夏乃市
第三章 夢喰い事件
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夢喰い事件 19

 八千穂が毅瑠の頬を張った途端、世界がゆがんだ。

「あーあ」

 気が付くと、八千穂は療養所の屋上にいて、順が顔を覗き込んでいた。体は大勢に抑え込まれている。

「せっかく楽しいデートを演出してあげたのに」

「ふざけるな! ……こうやって、力も夢に絡め取ったのか」

 八千穂は激昂げっこうした。毅瑠との茶番のデートが、この上ない侮辱に感じられた。

「力の場合、相手は私。まやかしじゃなくて、私は私だもの。今のとは違うわ」

 華子が言った。八千穂が体験したデートは、八千穂の記憶から、鬼たちがでっち上げた毅瑠だった。しかし、力の相手をした華子は、華子の意識そのもの――そう言いたいらしい。

「私と力のデートは本物なの」

「なんと言おうと、それはまやかしだ。お前は力の何を知っている? お前が書いた筋書き以上に、何かを知ろうとしたのか?」

「しょうがないじゃない。私、ベッドから動けないんだから!」

「動けなくても、デートのやりようはある。形に拘る必要はないんだ。二人が楽しければ、それでいい」

 それは、綾音の受け売りだった。八千穂自身よくわかってなどいない。しかし、言葉を紡がずにはいられなかった。

「力は優しい。夢でお前と知り合って約束をしたら、それを果たそうとするような人だ」

「そんな……そんな都合の良いこと、あるわけないじゃない!」

 華子は、八千穂を抑えていた全員を退かせると、一人、八千穂に馬乗りになった。

「綺麗事は嫌い。パパもママも、結局は約束を守ってくれなかった。守ってくれなかったのよ」

 華子は八千穂の喉笛に手をあてた。

「あんたなんか死んじゃえ」

「力を信じられないの?」

「え?」

「力を信じられないの?」

「だって……」

「私は友達のことは信じる」

「……」

「私を信じてくれた人のことは、絶対に信じる」

 華子の手の力が緩んだ。

「……ねえ、今からでも間に合うかな」

「間に合う」

「力は約束を守ってくれるかな」

「守る」

「力に伝えてくれる? 待ってるって」

「わかった」

 二人の会話を聞いていた順が慌てた。

「おい、華子。何を……」

「行って!」

 華子は八千穂から飛び退ると、そう叫んだ。

 八千穂は急いで立ち上がると、屋上の縁へと向かって駆けた。意識を集中し、再び現実世界との繋がりを探す。

 毅瑠の顔が浮かぶ。そして叫んだ。

「毅瑠! どこ?」

 ――チホ

 叫んだ八千穂の唇に、微かな温かさが触れた。

 体全体が毅瑠の存在を確信する。

 今度こそ、確信を持って、八千穂は屋上から飛び降りた。

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