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ひきわり  作者: 夏乃市
第三章 夢喰い事件
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夢喰い事件 16

「チホ」

 現場に着くと、目の下に隈を作った毅瑠が待っていた。毅瑠が立っているのは、丸太を組んで作られた門の前だった。〈飯丘療養所〉という看板が掲げられている。

 そこは、山の中腹に建てられた療養所だった。敷地内には、自然の木立をそのまま利用した広い庭がある。療養所の建物は、古い学校のように白いペンキで塗られた、木造の三階建てだった。

「予想以上の規模だ」毅瑠は〈魂見鏡〉越しに療養所を見た。「力先輩だけじゃない。四方八方から、すごい数の〈夢糸〉がここに集まっている。俺には……この療養所そのものが鬼に見えるよ」

 着いたときから、療養所は異様な気配がしていた。夜とはいえ、静かすぎるのだ。木々のさざめき、虫の声、鳥の声、そんなものがまるっきり聞こえない。まるで、療養所一帯すべてが眠りについてしまっているように――

 八千穂の右の三つ編みが顕現した。そして――見た。

 療養所の敷地中に、細い〈夢糸〉――〈魂糸〉か?――が張り巡らされていた。まるで、大きな繭のように。

〈魂糸〉は、生きとし生けるものすべてが持っている。〈夢糸〉が〈魂糸〉からほつれたものならば、生けるものすべてにそれがあってしかるべきだ。〈夢糸〉があるなら、木々も動物も、力や幸江と同じように、眠り続ける可能性もあるだろう。つまり――療養所周辺が、まるごと眠ってしまっているということだ。

 そして、毅瑠の言う通り、四方八方へと糸が伸びていた。ものすごい数だった。この一本が、力と繋がっていたのだ。

 ここまでになるのに、どれだけの時間がかかり、どれ程の〈魂糸〉が使われ、どれ程の人が犠牲になったのか――八千穂には想像もつかなかった。これ程の〈魂糸〉を取り込んだ鬼を見たのは始めてだった。

「大丈夫か?」と毅瑠が訊く。

 八千穂は無言で頷いた。怖じ気づくわけにはいかない――力の、そして作の顔を思い出す。どんなに巨大だろうと、強力だろうと、狩ると決めたのだ。

 八千穂は、解けた右の三つ編みから現れた漆黒の剣〈髪逆〉を逆手に引き抜いた。そして、くるっと順手に握り直す。

「毅瑠はここで待ってて」

 八千穂はそう言い置くと、門の中へと飛び込んでいった。

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