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ひきわり  作者: 夏乃市
第三章 夢喰い事件
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夢喰い事件 11

 翌日、神坂家の居間は随分と寂しかった。

 集まったのは、夏目、道生、希奈、綾音、そして八千穂。太一は相変わらず合宿。水村姉弟も来ていない。そして毅瑠は、昨晩以降、弦悟と共に力の〈夢糸〉を辿り続けている。

 弦悟が毅瑠に託したこと――それはもちろん、力の〈夢糸〉を辿ることだった。八千穂の顕現した三つ編みに触れただけで能力を発現した毅瑠は、弦悟よりも安定して〈魂見鏡〉を使うことができた。気配に頼らない分、視認能力は八千穂よりも高い。

 しかし、〈夢糸〉がどこまで続いているのかわからない以上、これは賭けだった。辿り切れなかった場合、力が危ない。

「二日だ」弦悟は八千穂に言った。「丸二日待て。それ以上は力君が心配だし、向井君も集中力が持たないだろう。だから二日経っても辿り切れなかった場合は、力君の〈夢糸〉を切りなさい」

 それは、二日間、力を今のままで放置しろということだった。八千穂の脳裏に、幸江の〈魂糸〉が吸い上げられた光景が蘇る。――なぜ、毅瑠は今回に限って、すぐに力を助けろと言わないのだろうか。それが八千穂には解せなかった。

 八千穂の思いを察したのか、出発前に毅瑠が言った。

「できるだけ急ぐよ。力先輩のために。それに、ここで鬼を見つけないと、次は作先輩かもしれない。乙蔵さんか、戸時会長かもしれないだろ?」

 その言い方はずるい、と八千穂は思った。力なら良いのかと、八千穂は珍しく天の邪鬼に考えた。しかし、毅瑠は八千穂の扱いを心得ていた。

「それよりも、二日間の俺のアリバイ、頼むな」

 それは、八千穂が最も苦手とする類の頼み事だ。一瞬の思考停止に陥っている間に、毅瑠と弦悟は行ってしまった。そして、今日に至る――

「どうかしたの?」

 ぼーっとしている八千穂を気にして、綾音が覗き込んできた。

 結局、昨晩は時間が深夜だったこともあり、八千穂は向井家に何の連絡もいれなかった。そして、今でもいれることができていない。

「アリバイ……」

「え?」

「毅瑠のアリバイが必要」

「向井君、何かしたの?」

 綾音は、毅瑠が罪でも犯したのかと、そんな誤解をしたようだった。

「違う。ええと……」

「神坂の親父さんと一緒なのか?」と道生が訊いた。「いつも駐めてある車がなかったからさ」

「八千穂ちゃんのお父さんのお手伝いってことは、アルバイト?」と希奈。「それが、向井君のご両親には内緒なのね?」

 八千穂は彼らの顔をまじまじと見た。何故、そんなことがわかるのだろうか。まだ何も言ってないのに――

「生徒会の合宿ってことにでもすればいい」道生がそう提案し、綾音が賛同した。

「でも、八千穂ちゃん、嘘つくの下手そうね」希奈が笑う。

 そこで、今まで黙って聞いていた夏目が口を挟んだ。

「じゃあ、本当の合宿にしちゃいましょう」

 え? と全員が夏目に注目する。

「向井君のアリバイはいつまで必要なの?」

「明日の夜」

 夏目はすっと立ち上がると、台所にいる七穂に声をかけた。

「七穂小母様、お願いがあるんですけど」

 話はとんとん拍子に進み、神坂家に夜七時、荷物を持って再集合ということになった。話の展開の速さについて行けない八千穂の脇で、道生が深いため息をつく。

「結局、毅瑠の家に連絡するのは俺なのに、合宿には参加できないんですか?」

「ごめんね、山瀬君。女五人に、男一人じゃね」夏目が悪びれもせずに言った。

「わかりました。明日また来ます。毅瑠の家には上手く言っておきますから」

「あ……」

 八千穂が口を開きかけたのを、夏目が止めた。

「いいのよ。山瀬君から連絡があれば、向井君のご両親も心配はしないわ。男の子って意外と信頼されているものなのよ。それに、向井君だって、携帯電話持って行ってるんでしょ?」

「……」

 それでは、合宿をする必要などないのではないか――

 ふふふ、と夏目が笑った。「それはそれ、これはこれよ」

 じゃあ後でね、と手を振って、夏目たちが鳥居をくぐった。八千穂はただ呆気に取られて見送ることしかできなかった。

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