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ひきわり  作者: 夏乃市
第三章 夢喰い事件
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夢喰い事件 9

「向井毅瑠です」

「神坂弦悟だ」

 改めて仕切り直し、二人は名乗り合った。

「こんな時間に呼び付けて済まなかったね。お願いしていた物は持ってきてくれたかな」

 毅瑠は〈魂見鏡たまみきょう〉をテーブルの上に置いた。

「お嬢さんからお借りしたままになってしまって。お返しします」

「君は、これがどんな物か知っているね?」

「〈魂糸〉を見るための物です」

「そうだ。では〈霊鬼割〉がこれを持つ意味はあまりない、というのはわかるかな?」

「そういえば……」

「〈霊鬼割〉という存在は、〈魂見鏡〉などなくても〈魂糸〉を見ることができる。八千穂の場合なら、右の三つ編みを顕現させずに〈魂糸〉を見ることができるという利点はあるが、本人はあまり気にしていないようだった。だから君に預けたのだろう」

「じゃあ、これは……」

「うん。本来は〈霊鬼割〉とは別の者たちが使っていた物だ。かつて、〈魂糸〉を操る術は数多あまた存在した。術者の中には、素で〈魂糸〉を見ることができない者もいた。しかし、見えなくても〈魂糸〉は存在し、操ることもできる。そんな者たちが使ったのがこれだ。神坂家の祖先が、どこかで手に入れたんだね」

 弦悟は〈魂見鏡〉を手に取ると、顔の高さに掲げた。

「片眼鏡というのは、本来眼窩(がんか)に直に填めるものだ。だから、人によってサイズが違う。見てご覧、これは鼻当てを後から溶接してある。手にいれた〈魂見鏡〉を、誰でもかけられるように改造したんだね。きっと、多くの術者の手を経てきたんだろうな。そして……そんな術者の一族の一つが、〈夢飼ゆめかい〉だ」

「ゆめかい……」

「古来、夢は意味を持つとされた。夢占や夢解ゆめときは政治の行方を左右した。〈夢飼い〉というのは、人が見る夢を自在に操った者たちだ。自らの出世のために力を使った者、金で頼まれて力を使った者、それは色々だったろう」

 弦悟は麦茶を一口飲んだ。そして毅瑠を見据えた。

「向井君。君の名字は〈夢飼い〉の一族の末裔の可能性がある」

「それは、以前チホにも言われたことがあります」

「うん。八千穂の考えそうなことだ」

 え? と、八千穂が驚いた。

「違うんですか?」と毅瑠。

「考えても見たまえ。この日本に〈向井〉という名字がどれ程あると思う? 言葉遊びとしてなら面白い。でも、本当のところはわからないし、さほど重要でもない」弦悟は〈魂見鏡〉を毅瑠に突きつけた。「重要なのは、君がこれを使う才能を持っている、その一点だけだ」

 毅瑠が〈魂見鏡〉を受け取った。

「君は八千穂の右の三つ編みに触れただけで、それが使えるようになったという。これは恐るべきことだ。私も使えるが、私の場合は〈髪逆かみさか〉で〈魂の要〉を貫いた末に得た力だ」

 これには毅瑠は驚いたが、八千穂も目を丸くした。知らなかったらしい。

「八千穂にも話していなかったね。神坂神社に婿養子として入るとき、先代の〈霊鬼割〉、つまり八千穂のおばあちゃんに施されたものだ。それが、七穂との結婚の条件の一つだった。そこまですれば、誰でも〈魂見鏡〉を使えるようになる」

 弦悟は試すような目で毅瑠を見つめた。

「……俺は、何をすればいいんですか?」

「うん。〈魂見鏡〉は見るだけのものだが、手練てだれは〈霊鬼割〉以上に世界を見通す。君にはその力で、辿ってもらいたいものがあるんだ」

 そして弦悟は、茂庭幸江のこと、〈夢糸〉のこと、力のことを話し始めた。

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