夢喰い事件 8
日はとっぷりと暮れていた。夜の神社には特別な雰囲気がある。暑さに紛れて、暗がりから何かが湧いて出てきそうだった。
神坂家の居間で、毅瑠は小さくなって座っていた。目の前には弦悟と八千穂がいる。今、七穂が麦茶を出してくれたところだ。
弦悟は腕組みをして毅瑠を見据えている。しかし、まだ一言もない。八千穂は途方に暮れている。携帯電話で八千穂に呼び出された毅瑠も況んや、である。
見かねた七穂が口を開いた。
「あなた。向井毅瑠さんよ」
毅瑠はとりあえず頭を下げた。八千穂と知り合って四ヶ月以上経つが、父親の弦悟に会うのは初めてだった。弦悟はむっつりとしたまま頷き、麦茶に手を伸ばした。しかし、相変わらずの無言。
また沈黙。そして――
「まだ子供のこと心配している」
ぼそっと八千穂が呟いた。
不意を突かれた弦悟は盛大に麦茶を吹き出し、咳き込んだ。
「ば、馬鹿! 何を言い出すんだ」
さっきまでの威圧感はどこへやら、弦悟は慌てふためいた。
「あなた」
「な、なんだ?」
「そんな馬鹿な心配をなさっていたんですか?」
「馬鹿とはなんだ! お前がボーイフレンドなどと言うから……」
呆気に取られている毅瑠に、七穂が言った。
「みっともないところをお見せしてごめんなさいね。この人、向井さんに焼き餅を焼いているのよ」
「はあ……」
「大方、ボーイフレンドと聞いて、短絡的に孫の心配でもしたんでしょ」
「まご?」
今度は毅瑠が慌てた。八千穂を見て、見る見る自分の顔が赤くなるのを自覚する。そんな毅瑠の様子を、八千穂は小首を傾げて眺めていた。