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ひきわり  作者: 夏乃市
第三章 夢喰い事件
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夢喰い事件 6

 神坂家の居間には、いつもの生徒会の面々が集まっていた。といっても全員ではない。太一は相変わらずサッカー部の合宿で不参加だったし、力もいなかった。

「縁田君は力仕事担当だからね。二学期にがんばってもらうわ」

 何の拘りなく夏目が言ってのけた。

 確かに、この集まりには何の強制力もない。しかし、生徒会役員をやるような人間は基本的に律儀者が多い。強制されなくても、こうして集まってくるのだった。

 仕事が一段落したところで、七穂が差し入れを持って現れた。見目涼しげなコーヒーゼリーだった。

「八千穂のお気に入りなのよ」

 それは、四月の〈銅像生け贄事件〉の折、毅瑠が神坂家に持参した物だった。それを売っている店を教える約束で、毅瑠は八千穂の協力を取り付けた。

「向井さんに教わったの」

 内緒話をするように、七穂は口の脇に手をあてて言った。しかし、当の八千穂は、既にコーヒーゼリーに夢中で気にも止めていない。

「隅に置けませんね」と道生が約束通りの答えを返す。

「あら、でも美味しい」と希奈が声を上げる。

「このお店知ってます。ケーキしか食べたことなかったです」と綾音。

「八千穂ちゃんのこんなに嬉しそうな顔、始めて見たわ」と夏目。

 完全に肴にされてしまった毅瑠は、しかし、別のことに気を取られていた。

「作先輩? ここ、先輩に教えてもらったお店ですよ」

「そんなこと、あったっけ?」

 嫌な沈黙が下りた。普段の作ならば、自分が毅瑠に教えたことをアピールし、大いにからかうはずの場面だ。それが、心ここにあらずといった状態だ。毅瑠が気にするのも仕方がないことだといえた。

 結局、その日は最後まで、作はそんな調子だった。

「お願いがあるの」

 作が八千穂にそう切り出したのは、全員が帰り支度を始めた頃だった。

「何?」

「ここじゃあ、ちょっと……」

 作が他人の目を気にするのも珍しかった。八千穂は、空いたグラスを乗せたお盆を持って台所へと向かった。作が手ぶらでそれに続く。台所の手前の廊下で二人は立ち止まった。

「お祓い……お願いできないかな?」

「お祓い?」

「茂庭さんの奥さんの話、聞いたわ」

 八千穂は、一昨日訪問した夫婦のことを思い浮かべた。そのときの、道すがら弦悟と交わした会話も蘇る。あのとき、八千穂が力のことを告げると、弦悟はこう答えた。

「その友達が、茂庭さんの奥さんと同じとは限らない。八千穂くらいの歳の子はよく寝る。寝る子は育つっていうしな。あまり先走るんじゃないぞ」

 そのときの八千穂は、もやもやしたものを抱きつつも頷いたのだったが――

「力?」

 うん、と作が頷いた。

「また後で来て。お父さんに話をする」

 八千穂の言葉に、作は悄然しょうぜんとした顔で頷いた。

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