夢喰い事件 プロローグ
彼はそこをよく知っていた。
いつも、姉や友人たちとの待ち合わせに使っているからだ。
しかし、今日の待ち合わせはいつもと違う。今日は特別な日だ。
広場の時計を見ると、ちょうど待ち合わせの時間だった。でも、待ち人はまだこない。いいのだ。彼女はいつも十分ほど遅れてくるのだ。
――いつも?
今まで、彼女と待ち合わせたことがあっただろうか?
彼は思い出せなかった。でも、気にすることはない。これから、楽しいデートが待っているのだ。
まず、この駅前広場の噴水前で待ち合わせ。
彼女は十分ほど遅れてくる。真っ白なワンピースと、麦わら帽子、籐のバスケットで駆けてくるのだ。
それから、映画を観る。映画の後は、公園で彼女の手作りのお弁当を食べる。午後はウインドウショッピングを楽しんで、夕暮れ時には海が見える公園へ。二人はいいムードになるのだ。
彼は時計を見た。待ち合わせの時間から九分が過ぎていた。
駅の改札から人がはき出され始める。あの中に彼女がいる。そうだ――彼女は遅刻は九分だと言い張り、自分は十分だと主張する。
白いワンピース姿が駆け寄ってきた。
――ごめんなさい。九分の遅刻ね。
――大丈夫だよ。でも、遅刻は十分だ。
――細かいのね?
――細かいのは君だろ?
二人は見つめ合い、笑った。
空は一点の曇りもなく晴れ上がっている。
彼女との初めてのデートは、きっと絵に描いたように楽しいに違いない。