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ひきわり  作者: 夏乃市
第二章 銅像生け贄事件
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銅像生け贄事件 25

 毅瑠は停学一週間の処分となった。

 もっとも、シートベルトをしていなかった毅瑠は、駐輪場に突っ込んだ際にハンドルに額を打ち付けたため、停学の殆どを病院で過ごした。だから、停学になっていなくても、その週は登校することは無理だっただろう。

 自宅に戻ったのは、事件の一週間後の金曜日だった。その日、道生から電話があった。

「お疲れさん」

 それが道生の第一声だった。それから、事件の報告がなされた。

 窓ガラスが一斉に割れた原因は不明。重傷四名、軽傷九七名。加えて、同じ時刻に保健室で非常勤の養護教諭が心臓発作で亡くなった。

「心臓発作……」

 毅瑠は胸が締め付けられる思いがした。あの先生は――名前も知らない。

「お陰で、騒ぎは益々大きくなったよ」

 ガラスのこともあり、週明けの月曜日は休校となった。学校中の窓ガラスの張り替えは、そう簡単にできるものではない。今でも、一部ひびが入ったままのガラスがあるという。

「あれ、休校の一日って、俺の停学ではどう計算するんだろう?」

「どうだっていいよ。月曜日から出てこい」

 学園全体を、事件は終わったという空気が満たしているという。

 毅瑠の大芝居に夏目が乗ったのだ。

 授業が再開された火曜日、夏目は大々的に収束宣言をして懺悔室を撤収した。部活動の勧誘については、目にあまることはしないという条件付きで継続を認めたという。

 そして、毅瑠の行動については、全面的に生徒会の意向によるものだと言い切った。あろうことか、毅瑠が壊した車と駐輪場の修理代まで、必要経費として学園に請求したのである。

「信じられないな」

「俺もだよ」

 どのような駆け引きがあったかはわからないが、学園は経費の負担を了承した。銅像については、正式にお祓いを執り行った上で撤去するという。創設者の銅像を撤去するという事案になかなか踏み切れないでいた校長が、これ幸いと夏目の提案に乗ったのではないか、というのが道生の推測だった。

 その後、毅瑠の携帯電話には、次々と退院祝いの電話が入った。しかし、毅瑠が一番待っていた電話は、結局かかってこなかった。

 そして土曜日。

 夏目が向井家を訪れた。

 土曜日だというのに、一分の隙もなく制服を着込んだ夏目は、毅瑠の両親に菓子折りを渡すと、深々と頭を下げた。

「生徒会長をしています、戸時夏目です。この度は、私が至らなかったばかりに、息子さんに怪我をさせてしまいました。誠に申し訳ありませんでした」

 この挨拶に、逆に両親の方が飲まれてしまい、こんな愚息どうなったって、とわけのわからない受け答えをする始末だった。

 毅瑠は、今回の顛末について、大幅に端折って両親に説明していた。ただ、金銭的な迷惑をかけるかもしれない、それだけはしっかり伝えた。父親はこっぴどく叱ったが、結局、何かあったら払ってやる、と胸を叩いた。それでも、内心かなり心配していたのだろう。毅瑠が学校が払ってくれるらしいとの話をすると、あからさまに胸を撫で下ろした。それが夏目のお陰であることを、当然毅瑠は話していた。

 だから、毅瑠の両親が夏目を見る目は、救いの女神を崇めるようだった。

「戸時会長、上がっていきませんか?」

「またにするわ。先に私が上がっちゃ悪いもの」

「?」

 夏目は意味不明のことを言い、玄関先で向井家を辞した。

 門のところまで夏目を送り、玄関に戻ろうとした毅瑠は、遠巻きに見つめる視線に気が付いた。こちらも、土曜日だというのに制服を着ている。

(なるほどね)

 夏目の言葉の意味が腑に落ちる。

「電話してくれればいいのに。家、わからなかっただろ?」

「会長さんに聞いた」

 八千穂は何やら紙袋下げていた。和菓子のようだ。

「上がるか?」

 八千穂が頷く。そして、紙袋を差し出して固まった。口上が思い出せないようだ。

「お土産?」

「そう」

 八千穂は、ずいっとそれを毅瑠に差し出した。

 毅瑠は苦笑しつつ、「ありがとう」と受け取った。

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