表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ひきわり  作者: 夏乃市
第二章 銅像生け贄事件
47/106

銅像生け贄事件 23

〈髪逆〉に〈魂の要〉を貫かれると、〈魂糸〉が一時麻痺するという。

 正子は、胸を〈髪逆〉に貫かれたまま床に崩れ落ちた。今まで光り脈動していた〈魂糸〉が、光を失って静かになっていた。

 八千穂は左掌を広げると、ゆっくりと正子の額にあてた。その左手の指が、操り人形をるがごとく、正子の額にリズムを刻む。

 正子は意識があった。しかし、思い通りに体を動かせないようだった。それでも、彼女は口を開いた。

「向井君……」

 毅瑠は正子の傍らに座り込んでいた。〈魂糸〉は刺さったままだ。

「私……死ぬの?」

「命を本来の形に戻すんだ。だから、死なない」

「……また、逆戻りなのね……」

たまあやおのうちへ、かんまわいのちつむげ」

 八千穂の口から低い詠唱が漏れた。それを合図に、部屋中の〈魂糸〉が少しずつ引き始めた。毅瑠に刺さっていた〈魂糸〉も抜ける。それはすべて――吸い込まれるように、正子の体へと収まっていった。

 どれ程の時間が経ったのだろうか。すべての〈魂糸〉が正子へと収まった。八千穂の左手がさらに激しく正子の額にリズムを刻む。毅瑠は〈魂見鏡〉を通して、正子の中の魂が編み上げられていくのを見た――そして、同時に、八千穂自身の〈魂糸〉が編み直されるのも見た。

 生きるために、八千穂もまた他人の命を取り込んでいる。鬼を狩る――という名目の元に。正子と八千穂の差、それが許されるか許されないかは、いったい誰が決めたことだろう――

 毅瑠の目の前で、正子の命があるべき姿を取り戻した――それは〈霊鬼割〉の力――命のの復元――

「封!」八千穂が気合い入れると、正子の体が大きく跳ねた。それで、終わりだった。

 毅瑠は、気を失った正子をベッドへ運んだ。養護教諭についてはどうすることもできない。完全に失われてしまった〈魂糸〉は、〈霊鬼割〉をもってしても、元に戻すことはできないのだ。

 開け放ったままの扉から一般教室棟が見える。そこには、叫び声や怒声が溢れている。すぐに、ここ保健室に大勢が押しかけてくるだろう。

 正子の施術が完了した今、事件の半分は終わったといえる。しかし、学園全体では事件はまだ進行中だ。

「すべてに決着を付けなくちゃいけない」

 八千穂は〈霊鬼割〉としての役割を果たした。毅瑠も生徒会役員としての役割を果たさねばならない。正子のこと、養護教諭のこと――挫けそうになる心を奮い立たせ、本当の意味で事件を終結させるために、毅瑠と八千穂は保健室を後にした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ネット小説ランキング>現代FTシリアス部門>「ひきわり」に投票
ネット小説の人気投票です。投票していただけると励みになります。(月1回)
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ