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ひきわり  作者: 夏乃市
第二章 銅像生け贄事件
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銅像生け贄事件 21

 ホームルームまで時間がなかったので、毅瑠はとりあえず、ロープを生徒用の下駄箱脇に置いた。こんな物を持ち去る人もいないだろう。昼休みに体育倉庫まで持っていけば良い。

 毅瑠が二年E組の教室に入ると、窓際の正子の席が空いていた。

「あれ、佐藤さんは?」

「体調崩して……」

 ちょうど予鈴が鳴って、クラスメイトの言葉と重なった。欠席らしい。出欠確認では、担任は最初から正子を呼ばずに、出席簿に何やらチェックをいれていた。

 一時間目の担当教員が入ってきて授業が始まった。しかし、毅瑠は上の空で聞き流す。

 思うのは、昨日八千穂と決めたこと――毅瑠が正子を人気のない場所に誘い出す。そして、八千穂が施術を行う。

 水曜日のことがあるので、正子が毅瑠の誘いに乗ってくれるかが心配だったが、それはあたって砕けるしかない。もっとも、正子は二人の意図を知らないのだから、それほど警戒されるとは思われなかった。

 場所は体育館裏を考えていたが、タイミングまでは事前に決められない。八千穂との連絡には携帯電話を使うことにした。

(しかし……)

 毅瑠はくすっと笑う。八千穂が携帯電話を持っていたことが意外だった。女子高生が携帯電話を持っていて、意外なことなど何一つないというのに。

 何はともあれ、正子が休みとなれば、今日は作戦を実行することはできない。今日は金曜日だから、決行するのは来週の月曜日になるだろう。

「そろそろ、最初に取り込んだ〈魂糸〉がすり減ってくる頃」八千穂は昨日、そう言った。

 新学期以降、挽田香の〈魂糸〉を取り込んで元気になっていた正子が、本来の病弱な体に戻りつつあるということだ。

「殺さずに、〈魂糸〉の一部だけを抜き取ることはできるんだろう?」

「人による」

「チホは?」

「できる」

「じゃあ、佐藤さんは?」

「できないと思う。全部抜き取る方が簡単」

 それは、人死にが出ていなければ、正子は誰も傷つけていないということ。一方で、正子には殺すしか手がないということだ。

 ――正子は、自分の身に起きたことをどれ程理解しているのだろう。挽田香の死と、自分が元気になったことの因果関係に気付いているのだろうか?

 それは、八千穂もわからないという。しかし、松広孝司の事件のとき、方法はともかく、正子が屋上へ彼を誘い出し、〈魂糸〉で引き落としたのは間違いない。校舎側面にあった〈魂糸〉の痕跡が、雄弁にそれを物語っている。落ちろ、と念じたのだろうか。それとも、挽田香の再現を、と願ったのだろうか。無意識だったのだろうか。――もしかしたら、この教室で人の死に立ち会う、それが特別なことだと思っているかもしれない。八千穂は言った。正子が強く願えば、物理的な手段を使わずとも、人を死に至らしめることができるはずだと。

 正子の生への強い思いが、次の犠牲者を出すのは時間の問題だろう。今はまだ、事故への遭遇という形式に無意識に拘っているから歯止めがかかっている。でもそれは、遠からず外れてしまうだろう――

 今日の欠席は体調が悪くなってきた証拠だ。このまま休み続けるようなら、別の手を考える必要があるだろう。できることならば、八千穂と正子が争うようなことは避けたい。鬼は本能的に〈霊鬼割〉を嫌うというが、無造作に近付いて一気に施術すればなんとかならないのだろうか?

 授業中、毅瑠はずっとそんなことを考えていた。

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