銅像生け贄事件 17
放課後、毅瑠は神坂神社を訪れた。
夏目の様子も気になったが、それは希奈達に任せることにした。
神社の鳥居の前に立つ毅瑠の手には、ケーキ屋の箱が握られていた。
八千穂を訪ねるにあたって、毅瑠は何かお土産を持参しようと思い立った。しかし、何を持っていったら良いか皆目見当が付かなかった。そういうことについて、本来一番頼りになるであろう夏目は閉じこもったまま。毅瑠と同じ書記である希奈は、なんだか微妙にズレたアドバイスをされそうな気がした。結局、毅瑠は作に助言を求めた。
「女の子の家に手土産?」作は目を丸くした。「プロポーズでもするの?」
「違います。でも、お弁当のこともあるし……」
「別に向井君がひっくり返したわけじゃないでしょ?」
「それはそうですが……」
困る毅瑠を見て、作はくつくつ笑った。
「はいはい。わかった。安くて美味しいケーキ屋さん教えてあげるから」
そうして教えてもらったケーキ屋で、毅瑠は悩んだ末にクリームの乗ったコーヒーゼリーを買った。八千穂について辛うじて知っていること――コーヒーが好きらしい、という点が決め手となった。
コーヒーゼリーをぶら下げながら、毅瑠は妙な気後れがしていた。前回の訪問はなんでもなかったというのに。人気のない神社の境内に足を踏み入れてからも、毅瑠は相変わらず二の足を踏んでいた。
「どちら様?」
上品な声に顔を向けると、裏手の住居から、買い物かごを下げた八千穂の母親が出てきたところだった。
「あら、この間の」
毅瑠の顔を見ると、彼女は華やかに微笑んだ。
「こんにちは。向井毅瑠です」
「はい、こんにちは。八千穂の母の七穂です。八千穂ね? 帰っているわ。今呼んでくるわね」
玄関の中へ戻ろうとする七穂を、毅瑠は呼び止めた。
「あの、お母さん。申し訳ありませんでした」
毅瑠は深々と頭を下げた。
「あらあら、何事?」
「今日、八千穂さんのお弁当をひっくり返してしまって……」
ああ、と七穂は思い当たることがあるような顔をした。
「それであの子、元気がなかったのかしら」
元気がなかった、という七穂の言葉が、毅瑠の心に重くのしかかる。
「お腹がすくとね、てきめんに元気がなくなるのよ」
「これ、つまらないものですけど」
毅瑠はケーキ屋の箱を差し出した。
「お弁当くらいで随分と大袈裟ね。本当にあなたがひっくり返したの?」
「はい」
七穂はじっと毅瑠の目を覗き込んだ。どこまでも見透かされそうな、澄んだ瞳だった。
「……」
「……」
「わかったわ。さあ、どうぞ上がって頂戴」七穂は毅瑠を玄関へと導いた。「中身は何かしら。あの子、きっと喜ぶわね」
ケーキ屋の箱を受け取って七穂が破顔する。八千穂が笑ったらこんな笑顔になるのだろうか、と毅瑠はぼんやり考えた。