銅像生け贄事件 15
しかし、お弁当の話を聞いて、夏目が動いた。
どこからどう話をねじ込んだのか、その日の六時限目に緊急の生徒集会が組まれた。
体育館に集合する生徒たちは、事件に関係したことらしいとの感触から、ざわざわと落ち着きがない。
「夏目。何も用意していないんだけど」希奈が悲鳴をあげた。
「いい。私がしゃべるだけだから」
夏目の声がいつもより低かった。そして恐ろしいほど静かだ。
「まずいなあ、夏目完全にキレてるよ……」
そう言ったのは作。力は既に逃げ腰だ。
毅瑠は、夏目に話しては拙かったのか、と後悔していた。昨日の今日で精神的に浮上し切れておらず、つい夏目に甘えてしまったのだ。幽霊の噂話と八千穂の関係、屋上の鍵の件、そして弁当のこと――昼休みのうちにすべてを話してしまった。聞き終わった夏目は、無表情で生徒会室を飛び出していったのだが――
「荒れるぞ。二人とも覚悟しておけ」太一が、毅瑠と道生に耳打ちをした。
二年生の二人は、物腰が柔らかく、優しく、茶目っ気たっぷりで、頼りになる夏目しか知らない。だから、これから起ることが想像できないでいた。
キーン、とマイクのスイッチが入る音がして、体育館中が静まり返った。生徒会のメンバーを除いたほぼ全員が、何が起るのか、期待を込めて舞台上を見つめている。
舞台袖から、マイクを手にした夏目が現れた。演壇の手前で立ち止まり、生徒たちを見渡す。
美人で、面倒見がよく、生徒たちに人望が厚い生徒会長――戸時夏目。彼女は軽く息を吸うと、低い声で話し始めた。
「噂話ぐらいなら、まだいい。でも、憶測で断じて、物理的な嫌がらせ? ……あんた達、最低だ」
その言葉の冷たさに、体育館中が凍り付いた。痛いほどの静寂が体育館を満たす。
「相談室も巡回も止めるわ。死にたい人は死ねば?」
教員たちでさえ、言葉を失い立ち尽くしている。一年生の女子だろうか、しくしくと泣き出す声が聞こえる。
「それでも生徒会長か」と、誰かが声をあげた。
ガアアアン!
スイッチが入ったままのマイクが舞台上に叩き付けられた。スピーカーから飛び出した轟音に空気がびりびりと震える。――泣き声も、呼吸音さえ消えて――静寂が体育館を支配した。
――だから、最後の一言は、マイクなしでも全員の耳に届いた。
「じゃあ、あんたがやれば?」