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ひきわり  作者: 夏乃市
第二章 銅像生け贄事件
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銅像生け贄事件 5

 落ちたのは、一年B組の松広孝司まつひろたかしという生徒だった。

 救急車で運ばれた孝司は、病院で目を覚ました。徹底的に精密検査が行われたが、結果は良好だった。なんと、入院の必要すらないくらいだったが、大事を取って一晩だけ入院をして様子を見ることになった。左腕前腕橈骨さわんぜんとうこつ骨折、打撲数カ所。診察をした医師は、付き添った教員から経緯を聞き絶句した。普通なら、その程度の怪我で済むような状況ではないのだ。

 そして、本人は屋上から落ちたことを覚えていなかった。医師はショックによる一時的な記憶喪失と診断した。

「掃除当番で、ゴミを分別して捨てに行ったところまでは覚えています。でも、それ以降はよくわかりません。気が付いたら病院でした」そう、孝司は語ったという。

 大騒ぎにはなったものの、孝司の命に別状がないこともあって、学校は翌日も通常授業が行われた。屋上への階段にはロープが何重にも張られ、鍵の交換が完了するまでは、ドアノブは針金でがちがちに固められた。

 屋上の鍵が一つ行方不明になっていることについては箝口令かんこうれいが敷かれた。用務員室は常に誰かが居るわけではなく、その気になれば誰でも入ることができる。そして、孝司は鍵を持っていなかった――このことは、ある一つの恐ろしい推論を成り立たせる。

 誰かが屋上へのドアを開けた。そして、松広孝司を突き落としたのではないか?

 現に、屋上に孝司以外の人影を見た気がする、と言う者が何人かいた。しかし、下から屋上を見上げたとき、どれほどの範囲が見えるのか。孝司の背後に人がいたとして、はたして判別がつくものか――結局、誰かいたとする証言は信憑性を欠いたままだった。

 事故の翌日、学園側は「屋上の柵が壊れて松広君は誤って落ちた」という説明を生徒たちにした。しかし、それをそのまま信じる生徒などいるはずもなく、生徒間の噂話はますますエスカレートしていった。


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