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ひきわり  作者: 夏乃市
第二章 銅像生け贄事件
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銅像生け贄事件 4

「とりあえず、これを飲んで落ち着いて」

 希奈が差し出した紙コップは、いれ立てのミルクティーで満たされていた。

 場所は視聴覚室。今は、生徒会の〈相談室〉として使用されている。

 時刻は午後七時近くなっていた。一般の生徒の姿は既になく、夏目を除いた生徒会のメンバーが揃っていた。

「縁田君もそんなに落ち込まないで」

 巡回要員である毅瑠と太一の落ち込みようは、大変なものだった。

「二人が責任を感じることはないわよ」さっきから希奈が、なんとか二人を元気づけようとしてくれていた。

 自分たちなら防ぐことができた――いや、防がなければならなかった――そう考えるのは思い上がりだろうか。六百人からいる全校生徒に、すべて目を光らせることなどできはしない。それはわかっている――わかっているのだが、可能性を想定していただけに、毅瑠は悔やまれて仕方がなかった。

「クッキーもあるよ。疲れたときは糖分が効くわ」そう言ったのは作だった。

 夏目の提案で、〈相談室〉には紅茶とクッキーが用意されていた。少しでも生徒たちにリラックスしてもらおうとの配慮で、学園側もそれを認めた。その甲斐あって、昼間はかなりの生徒がここを訪れたようだった。

 ミルクティーを一口飲んで、毅瑠は誰にともなく呟いた。

「屋上の鍵は確かにかかっていた」

 昼休みに巡回をしたとき、屋上への扉が施錠されていることは間違いなく確認した。しかし、さっき屋上に出たとき、無理にこじ開けた様子などなかった。

「先生方が見廻りをしたときに、閉め忘れたってことはないか?」と力。

 しかし、それはありそうになかった。殊更、屋上に注意が払われているのだ。閉め忘れるなど論外だ。

「あの男の子が開けたのかしら」希奈が首を傾げる。

 屋上の鍵は全部で四つ。守衛室、事務室、職員室、用務員室にそれぞれ保管されているはずだった。

「俺、鍵が全部あるかどうか確認してきます」

 居ても立ってもいられなくなった毅瑠は、視聴覚室を飛び出した。

「あら、向井君。どうしたの?」

 飛び出したところで、毅瑠は夏目と鉢合わせた。簡単に鍵のことを説明し、夏目の脇をすり抜ける。しかし、その首根っこを夏目が抑えた。

「待ちなさい」

「なんでですか?」毅瑠が食ってかかる。

「鍵なら先生方が確認したわ。用務員室にあった鍵が、行方不明になっているそうよ。ちなみに、落ちた彼は持っていなかったわ」

 毅瑠は呆然と立ち尽くした。

「彼、命に別状はないそうよ」

「え?」

「それが気になっていたんでしょ? 今、病院から連絡があったのよ。話すから中に入りなさい」

 夏目が優しく言った。

「特別サービス、してあげようか?」

「いえ、大丈夫です」

 夏目は頷くと、視聴覚室へと入った。毅瑠も大人しくそれに続いた。

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