銅像生け贄事件 4
「とりあえず、これを飲んで落ち着いて」
希奈が差し出した紙コップは、いれ立てのミルクティーで満たされていた。
場所は視聴覚室。今は、生徒会の〈相談室〉として使用されている。
時刻は午後七時近くなっていた。一般の生徒の姿は既になく、夏目を除いた生徒会のメンバーが揃っていた。
「縁田君もそんなに落ち込まないで」
巡回要員である毅瑠と太一の落ち込みようは、大変なものだった。
「二人が責任を感じることはないわよ」さっきから希奈が、なんとか二人を元気づけようとしてくれていた。
自分たちなら防ぐことができた――いや、防がなければならなかった――そう考えるのは思い上がりだろうか。六百人からいる全校生徒に、すべて目を光らせることなどできはしない。それはわかっている――わかっているのだが、可能性を想定していただけに、毅瑠は悔やまれて仕方がなかった。
「クッキーもあるよ。疲れたときは糖分が効くわ」そう言ったのは作だった。
夏目の提案で、〈相談室〉には紅茶とクッキーが用意されていた。少しでも生徒たちにリラックスしてもらおうとの配慮で、学園側もそれを認めた。その甲斐あって、昼間はかなりの生徒がここを訪れたようだった。
ミルクティーを一口飲んで、毅瑠は誰にともなく呟いた。
「屋上の鍵は確かにかかっていた」
昼休みに巡回をしたとき、屋上への扉が施錠されていることは間違いなく確認した。しかし、さっき屋上に出たとき、無理にこじ開けた様子などなかった。
「先生方が見廻りをしたときに、閉め忘れたってことはないか?」と力。
しかし、それはありそうになかった。殊更、屋上に注意が払われているのだ。閉め忘れるなど論外だ。
「あの男の子が開けたのかしら」希奈が首を傾げる。
屋上の鍵は全部で四つ。守衛室、事務室、職員室、用務員室にそれぞれ保管されているはずだった。
「俺、鍵が全部あるかどうか確認してきます」
居ても立ってもいられなくなった毅瑠は、視聴覚室を飛び出した。
「あら、向井君。どうしたの?」
飛び出したところで、毅瑠は夏目と鉢合わせた。簡単に鍵のことを説明し、夏目の脇をすり抜ける。しかし、その首根っこを夏目が抑えた。
「待ちなさい」
「なんでですか?」毅瑠が食ってかかる。
「鍵なら先生方が確認したわ。用務員室にあった鍵が、行方不明になっているそうよ。ちなみに、落ちた彼は持っていなかったわ」
毅瑠は呆然と立ち尽くした。
「彼、命に別状はないそうよ」
「え?」
「それが気になっていたんでしょ? 今、病院から連絡があったのよ。話すから中に入りなさい」
夏目が優しく言った。
「特別サービス、してあげようか?」
「いえ、大丈夫です」
夏目は頷くと、視聴覚室へと入った。毅瑠も大人しくそれに続いた。