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ひきわり  作者: 夏乃市
第二章 銅像生け贄事件
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銅像生け贄事件 3

 事件の第二幕は、その日の放課後に幕を上げた。

 下校しようとしていた数人の生徒たちが、立ち入りが禁止されているはずの屋上に、人の姿を認めたのだ。しかも、それが男子生徒で、柵から身を乗り出していたのだから、校内は蜂の巣をつついたような大騒ぎとなった。

 校舎一階には、万が一に備えて、走り高跳びなどで使うマットが数枚用意されていた。五階からの落下に対してどれほどの効果があるのかは不明だったが、可能な限りの備えはしておくべきだ、と生徒会が主張した結果だった。

 騒ぎを聞きつけて中庭に飛び出してきた教員たちは、慌ててマットを引っ張り出した。それが男子生徒の真下に置かれたのと、彼が屋上から落ちたのがほぼ同時だった。

 現場を見ていた誰もが、挽田香のときの再現を確信した――また人が落ちた――その恐怖に、誰もが凍り付く――

 ぼすん! という鈍い音がして、マットの周りに砂埃が舞った。男子生徒は、ちょうどマットの真ん中に落下した。

 まず、恐る恐る教員が近付いた。男子生徒は気を失っていたが、しかし、目立った外傷は見あたらない。息もあるようだった。

「生きてる! 救急車を呼べ!」

 その声に弾かれて、わっ、と中庭中の人が動き出した。生徒たちは胸を撫で下ろし、教員たちは走り回る。しかし――男子生徒が落ちた場所が例の銅像のすぐ近くだったことを、このときは誰も気にする余裕はなかった。

 その騒ぎが始まったとき、毅瑠は一般教室棟の三階にいた。数人の生徒に囲まれて話をしているところで、携帯電話が鳴った。

「向井、屋上だ!」太一からだった。

 毅瑠は弾かれたように駆けだした。五階まで階段を駆け上がったところで、男子生徒が屋上から落ちた――しかし、そのときの毅瑠には、それはわからなかった。

 一般教室棟には北と南に階段があり、屋上に上がれるのは北の階段だけだった。南の階段を上がってきた毅瑠は、五階の廊下を全力で走った。目指す北階段が目に入ったとき――屋上から駆け下りてくる人影があった。その人物は毅瑠には気付かず、下の階へと下りていく――

(あれは……)

 たなびく二本の三つ編みが目に焼き付いた。昼休みに会った一年生の女生徒――

 しかし、今は屋上へと急ぐときだった。毅瑠は迷わず、階段を駆け上がった。

 屋上への扉は開いていた。

 屋上に出た毅瑠は周囲を見渡した。誰もいない。恐る恐る中庭を覗き込むと――そこは大騒ぎになっていた。

 マットが敷かれ、男子生徒がその上に倒れている。教員たちが走り回り、生徒たちが遠巻きに眺めている。そして――無情に起立する、ブルーシートに包まれた銅像。

 やがて、遠くから救急車のサイレンが聞こえてきた。

「くそっ」

 こういう事態を防ぐための巡回だったはずなのだ。毅瑠は、両の拳を、何度も何度も柵に打ちつけた。いくらマットに落ちたとはいえ、この高さからでは到底助かるとは思えない――

「向井!」

 屋上に太一が飛び出してきた。教員たちがそれに続く。全員顔面蒼白だった。

 それから、手分けをして辺りを隈無く探したが、遺書の類は発見されなかった。

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