テレパシー事件 15
翌日、金曜日の昼休み。
綾音はとぼとぼと廊下を歩いていた。
なんとか学校には出てきたものの、一時間目に気分が悪くなり、保健室で寝ていたのだ。養護教諭に家に帰るように言われ、綾音は荷物を取りに教室に向かっているところだ。
体調が悪いのは本当だが、原因が体ではないことはわかっていた。クラスメイトの中にいると、昨日屋上で想像した幻――秋山彰子が何かを引っ張り出される様――が浮かび、再びの吐き気に襲われたのだった。
二年C組の教室が近付いたとき、綾音は毅瑠の姿を認めた。誰かと一緒に二年C組から出てきた――あれは、秋山さん。二人は並んで階段の方へと消えた。
綾音は教室に飛び込むと、誰彼かまわず訊いた。
「秋山さん、どこに行ったの?」
「あれ、綾音。大丈夫なの?」
「それより、秋山さんは?」
「え? 今、生徒会役員の人が呼びに来たのよ。なんか、委員会がどうのって……ちょっと、綾音?」
最後まで聞かず、綾音は教室を飛び出した。
綾音はまず、生徒会室へ飛び込んだ。しかし、そこに毅瑠と彰子はいなかった。生徒会役員は誰も行き先を知らないという。
それから、綾音は思いつく限り、校舎内を走り回った。屋上かとも思ったが、扉には鍵がかかっていた。そして、校舎内にいないと見切りをつけると、上履きのまま、今度は外へと飛び出した。
嫌なイメージが頭から離れないのだ――毅瑠は、八千穂は、秋山さんをどうするつもりなのか。
息が上がり、肺がずきずき痛む。脚がもつれてバランスが崩れる。それでもなんとか前へ進もうと足掻く――
そして、体育館の裏へと足を踏み入れたとき、綾音は見覚えのある三つ編みを見つけた――腰までの長い左の三つ編みと――解けた右の三つ編み――
八千穂の右手には剣が握られ――それが、何かに突き立てられている――
「秋山……さん……」
背後から彰子に剣を突き立てた八千穂は、左手でその後頭部を掴んでいた。その向こう側には、その様子を見つめる毅瑠がいる。
毅瑠が綾音に気付いた。その瞳が、ひたと綾音を見つめる。
「魂の綾は己が内へ、環を廻し命を紡げ……」
聴いたことのある旋律――言葉――そして――
「封!」という気合いと共に、彰子の体が一つ大きく跳ねた。
その様子を見て、綾音の中で何かが切れた。
「うわああああああ――――!」
そう叫び、綾音は八千穂に向けて突進した。
しかし、八千穂までは届かなかった。すっと前に出た毅瑠が、綾音の体を抱き留めたからだ。
「乙蔵さん!」
「秋山さんに、秋山さんに何をしたの!」
「命の環を繋ぎ直したんだ。大丈夫だよ。あの剣は人体に傷は残さない」
「そんなの、信じられないわ! だって、だって……あんな……秋山さん! あああああ!」
綾音は絶叫し、そして気を失った。