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ひきわり  作者: 夏乃市
第四章 八千穂事件
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八千穂事件 29

 体育館に集う全員が、はっとした。

 今まで何をしていたのか――そうだ、生徒集会の最中だった。体育祭と文化祭の連絡があって、それから、何か重大な発表があったような――。しかし、思い出せない夢のように、その記憶は漠としておぼろげだ。

 全員が同じような想いに囚われ、やがて、すべての視線が舞台上に集まった。

 そこには、生徒会書記の向井毅瑠と、女生徒が一人向かい合っていた。

 すらりとした長身の立ち姿。高校生離れして大人っぽい雰囲気。切れ長の目と、すっと通った鼻筋。そして髪型は、肩口で切りそろえられたボブカット――神坂八千穂だった。

 髪を切ったんだ、と誰もが思った。そこに重大な意味があったような気がして――しかし、その想いは誰の心をもすり抜けた。そうだ、彼女はここしばらく学校を休んでいたのだった。夏風邪をひいたという話だったか――

 六時限目は残り五分だった。

 そんなに時間が経っていたのか、長引くのはごめんだ、今は何をしているのか――そんな空気に反応して、舞台上で毅瑠がマイクを取った。

「ええ、それでは、以上を持ちまして……」

 そこまで言いかけたとき、八千穂が毅瑠に近付いた。

「毅瑠……」

「?」

 八千穂が毅瑠を見つめて、口をぱくぱくした。毅瑠が首を傾げる。

 体育館中の生徒たちは、八千穂の顔を見て事態を悟った。なにより、こういうことに敏感な年頃である。誰もが息を詰めた。

 しかし――八千穂は固まったままだ。

「……がんばれ」体育館のどこかから女生徒の声が飛んだ。

「かんばれ、神坂」今度は男子生徒だった。

「ほら、がんばれ」「どうした」「向井、しっかり聞いてやれ」

 やがて、八千穂を励ます声は体育館中に波及し、大合唱となって舞台上に降り注いだ。

「ええと……」

 いたたまれなくなって逃げ出そうとする毅瑠を、飛び出してきた太一、道生、力の三人が取り抑えた。綾音が八千穂の肩を抱き、希奈と作がその背中を押す。あろうことか、夏目はマイクで二人の声を拾っている。

「毅瑠……」

「はい」

「私のせいで、ごめんなさい。私、毅瑠が好き。これからもずっと毅瑠と一緒にいたい」

「……こちらこそ」

 わっと体育館中から歓声が上がり、二人は生徒会のメンバーにもみくちゃにされた。

 六時限目の終わりを告げるチャイムが鳴っても、生徒たちの大騒ぎは止むことがなかった。

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