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ひきわり  作者: 夏乃市
第四章 八千穂事件
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八千穂事件 28

 八千穂と毅瑠は舞台に上がった。

 髪束を抱えた毅瑠と、〈神逆〉を持った八千穂が向き合う。今、この場にいる全員の意識を、文字通り束ねている毅瑠――そんな毅瑠を通して、七百人以上をまとめて施術するには――

「大丈夫。何かあったら、俺も一緒に責任を持つよ」

「毅瑠……」

 八千穂は、白銀に輝く〈神逆〉を見た。

(おばあちゃん。どうすればいいの?)

〈神逆〉が僅かに瞬いた。そして、八千穂の心に舞い降りた確信――

「わかった。おばあちゃん。やってみる」

 八千穂は意を決した。左手を、髪束を抱えている毅瑠の左手に乗せ、右手に〈神逆〉を握って顔の高さに掲げる。

たまあやおのうちへ、かんまわいのちつむげ!」

〈神逆〉が白銀の光を増した。八千穂の手の中で、それは剣の形を失い、ほどけた。核をなしていた白黒二本の剣が宙に浮き、八千穂の右手を中心に円を描いて飛び始める。次第に速度を増すその軌跡が、やがてまばゆい真円となった。そして、二本の剣をまとめていた〈魂糸〉仕込みの髪は、輝き、舞い、大きく広がった。まるで、天使の翼のように。

 八千穂は、右手に輝く白銀の輝きから、力が流れ込んでくるのを感じた。その流れは、左手を通って毅瑠へと注ぎ込み、毅瑠の抱える奥義〈髪逆〉の髪束を伝って、体育館中の生徒へと、教職員へと迸った――もう、八千穂が何かをする必要はなかった。二本の剣が、全員の〈魂糸〉を環に繋いでいく――

 その流れの途中で、毅瑠が〈魂糸〉をいていた。く――八千穂には、そうとしか表現できなかった。数百人分の〈魂糸〉を、毅瑠はまるで大きな竪琴でも弾くように、つま弾いている。それが〈夢飼い〉の力――夢を――ひいては記憶までも操る〈夢飼い〉の力だ。

 自分のために毅瑠をこんな風にしてしまった。八千穂は胸が締め付けられた。さっき毅瑠は、何かあったら一緒に責任を持つ、と言ってくれた。でも、責任を持たなければいけないのは自分ではないのだろうか。

(がんばれ、女の子)

 それは、誰の声だったろうか。

 あまりにたくさんの〈魂糸〉に繋がっているために、誰の声なのか定かではない。でも、八千穂の悩みを感じ取った誰かが、励ましてくれたようだ。

 この施術が終われば、ここにいる大多数にとっては、これは夢だったことになってしまう。鶴牧との闘いの最中に応援してくれたことも、夢の中の出来事として埋もれてしまう。

 でも、八千穂はそれでもいいと思った。励まされた八千穂の心が覚えていれば、それでいいと思った。それだけで、命をかけた甲斐があったと思える――

 ふわっと何かが八千穂の心に触れた。

「おばあちゃん……」

 おばあちゃんが、そのまたお母さんが、そのお父さんが、そのまた叔父さんが――代々の〈霊鬼割〉が――今まで剣〈髪逆〉として八千穂と共にあった者たちが、八千穂に別れを告げていた。

「ありがとう」八千穂の頬を涙が伝う。

「チホ」

 毅瑠の声に八千穂は頷いた。最後まで、しっかりと施術を終わらせなければならない。

 今や体育館は、白銀の輝きに完全に満たされていた。右手の周りをますます高速で回る剣を高々と掲げ、八千穂は最後の気合いを発した。

「封!」

 体育館を満たしていた輝きは、唐突に八千穂の右手に収束した。

 そして、そこにいる全員の体の中を、優しい風が吹き抜けた。

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