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ひきわり  作者: 夏乃市
第四章 八千穂事件
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八千穂事件 26

 八千穂は学校の正門前に立っていた。

 正門の中では、多くの生徒たちが集まって、口々に何かを言っている。

 また――私をやめさせろ、と言っているのだろうか?

 それでも、八千穂はこの学校が好きだった。

 毅瑠がいる。綾音もいる。夏目も、生徒会のみんなもいる。他の生徒たちやクラスメイトたちも――好きになってくれなくても、自分がそこに属していればいい。

 声をかけてくれない位なら問題ない。小中学校の頃からそうだったから。

 嫌がらせは――少し辛い。でも、四月の事件のとき以降、目立った嫌がらせはない。今回のことがなければ、クラスでももっとうち解けることができたのだろうか。

 生徒たちの声が少しずつ聞こえてきた。

 八千穂は思わず耳を覆った。

 しかし、誰かの手が、優しく八千穂の手を止めた。

(チホ。聴いてごらん)

(毅瑠?)

 八千穂は耳を澄ませた。

(……ばれ)

(…ばって!)

(がんばれ)

(負けるんじゃないぞ!)

(踏ん張れ!)

 これは――

(みんな、チホを応援してくれているんだよ)

(応援……)

 幾重にも重なった声は、すべてが八千穂への応援だった。負けるなと、がんばれと、八千穂を励ましてくれていた。

 温かいそれらの声に包まれて、八千穂は学校の正門をくぐった――

「……?」

「目が覚めた?」

 気が付くと、八千穂は毅瑠に抱きかかえられていた。場所は体育館の中だ。八千穂は飛び起きた。

「鬼は?」

「終わったよ」

 見ると、鶴牧が仰向けに倒れ、気を失っていた。〈魂糸〉の環が復元されている。八千穂は自分が施術したことを思い出した。

「〈神逆〉は?」

「これ?」

 白銀に光る〈神逆〉は、毅瑠の手に握られていた。それが実体を保っているということは――

「毅瑠……」

 毅瑠の胸が血に染まっている。毅瑠が持っていた白い剣――あれで〈魂の要〉を貫いたのだ。そして〈魂糸〉を操る力を手にいれた。闘いの最中は深く考える余裕がなかった。でも――

「細かい話はあとだ。みんなを施術しなくちゃ」

 八千穂は体育館を見渡した。体育館にへたり込む生徒の三分の一と、教職員のほぼ全員が、鶴牧によって〈魂糸〉を傷つけられていた。

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