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ひきわり  作者: 夏乃市
第四章 八千穂事件
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八千穂事件 25

 二本の剣を一本にするところまでは上手くいった。しかし、八千穂が押されていた。

 鶴牧の〈魂の要〉は間違いなく右目の位置にある。鶴牧に気付かれてしまったが、結局はそこを狙うしかない。なんとか――なんとか鶴牧に隙を作ることができないだろうか。

 毅瑠は、自分が鶴牧に飛びかかることを考えた。しかし、奥義〈髪逆〉を放り出すわけにはいかない。

(……がんばって)

「?」

 毅瑠は意識を集中した。

(がんばれ)

(負けるな!)

(そんな奴、やっつけちゃえ)

 はっと毅瑠は周囲を見渡した。〈魂糸〉が麻痺し、思うように体を動かせない七百人以上が、八千穂と鶴牧の闘いを、その目だけで追っている。そして、全員が八千穂を応援している――

 見えるようになることと、それが理解できることは違う。それは弦悟も指摘していた点だ。しかし、八千穂と鶴牧の闘いは、明らかに鶴牧の方が悪だ。誰もが、それを本能的に察知している。ならば――

 毅瑠は髪束を抱えたまま舞台から飛び降りた。鶴牧は八千穂の喉を締め上げるのに夢中で、毅瑠に気付く気配がない。

 毅瑠は左腕に髪束を抱えたまま、右掌に意識を集中した。そこに自分の〈魂糸〉を集める。さっきの鶴牧の攻撃によって、毅瑠の〈魂糸〉は切られてしまっている。しかし、今は逆にそれが武器になる。切れてはみ出した〈魂糸〉は力だ。

 届け! と毅瑠は右手を伸ばした。その手から、毅瑠の〈魂糸〉がまっすぐに鶴牧へと伸びた。そして――届く――

「みんな、力を貸してくれ!」毅瑠は全身全霊で叫んだ。

 鶴牧が毅瑠に気付いた。こちらを振り返る。そして――

「があっ……」

 鶴牧の体が、電撃を受けたかのように仰け反った。頭を抱え、床をのたうち回る。

「チホ! 今だ!」

 喉を潰されかけていた八千穂は、苦しそうにむせ返りながら、それでも〈神逆〉を構えた。そして、のたうち回る鶴牧が顔を上げた瞬間、その右目を貫いた。

「このっ……」

 鶴牧が叫び声をあげ、その手を再び八千穂の喉笛へと伸ばした。

 しかし――そこまでだった。

 鶴牧の目が大きく見開かれまま固まった。伸ばした両腕が力なく落ちる。

 荒い息を吐きながら、八千穂は左手を鶴牧の額にあてた。

たまあやおのうちへ、かんまわいのちつむげ……」

 切れ切れな詠唱と共に、八千穂の指が小刻みに躍った。まるで、操り人形をる人形遣いのように。

「やめろ……やめ……ろ……やめ……」

〈魂糸〉が痺れてほとんど動けないにも拘わらず、鶴牧は抵抗し続けた。

「封!」

 八千穂が気合いをいれると、鶴牧の体が一つ大きく跳ねた。そして、鶴牧有人は――鬼の力を失った。

「終わったな」

 毅瑠は、白銀の剣を引き抜いて体を起こした八千穂に言った。

 八千穂は立ち上がり、小さく頷いて、そして崩れ落ちた。

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