第二話
扉を開いた瞬間、僕の期待は裏切られた。むしろ良い意味で裏切られたと言ってもいいかもしれない。
僕の目に飛び込んできた来た景色は、ファンタジーな異世界でも、鼻の長い老人が座っている青い部屋でもなく。よく知っている。というか僕しか知らないであろう景色だった。
どこかの古城の庭園、一面に広がる紫陽花は、雨上がりの後のように輝いている。そして夜空に浮かぶ、庭園を青く照らす通常の5倍はありそうな大きな月。紫陽花に作られた十字路の中央には、白いテーブルが佇んでいる。
そう、ここは常日頃「こんな場所があったら良いな」と想像している、僕が思い描いた理想の景色だ。何度も何度も、よりリアルに思い描けるように想像を重ねた景色。それが今目の前にある。緩やかな風の流れ、花の匂い、月の明かり、全てが現実となったかのようにリアルに感じとることが出来る。
いつも夢見ていた景色に出会えた喜びと、想像していた以上の美しさに言葉を失いながら見渡していると、ふとあることに気づく。というか、何故初めに気づかなかったのだろう、中央にあるテーブルに座り、優雅に紅茶を飲んでいる女の子の存在に。
ここは夢なのか現実なのかとか、なぜ今まで夢で見たくても見れなかった景色がこんな形でとか、色々気になることがあったが、今はあの女の子は誰なのか、人間なのかそうでないのか、なぜこの場所にいるのか、そんなことで頭がいっぱいになっていた。ようやく見ることができた景色をゆっくり眺める余裕もなく、早足で女の子に近づき声をかけようとすると、先にとても綺麗な声で声をかけられた。
「こんばんは、綺麗な景色だね。」
「こ、こんばんは。そうですね、とても。」
突然声をかけられて、すこし動揺してしまった。恥ずかしい・・・。
いや、恥ずかしがってる場合じゃない。色々聞きたいことがあるんだから。恥ずかしさを誤魔化すように、少し早口になりながら尋ねる。
「えっと・・・。君は誰?ここはなんなの?僕の夢の中?それとも別の世界?」
「あはは、少し落ち着きなよ。とりあえす座ったら?その話は紅茶でも飲みながらしよう。好きな銘柄はあるかい?」
「・・・じゃあ、ダージリンで。」
とてもゆったりとした雰囲気で返されると、慌てている自分が馬鹿みたいで更に恥ずかしくて、そう答えるのが精一杯だった。
テーブルに座り、いつの間にか用意されていた紅茶に驚きながら、緊張でカップを落とさないように慎重に口元に運ぶ。紅茶は今まで飲んだことのある中で一番美味しかった。そのことに驚いていると。彼女は嬉しそうな顔をしながらこちらを見て、話を始めた。
「お気に召したようで何よりだよ。さて、それじゃあまず最初の質問に答えようか。」
「僕の名前は煌月 奏ちょっとだけ不思議な力を持ってる普通の女の子だよ。」
「宜しくね。月下 悠君。」
そう言って微笑んだ彼女の姿は、月明かりも相まって、息を呑むほど綺麗だった。