第七話 涼宮みなも
明香と別れてから用意していた家にあるベッドに倒れこみ、眠るように目を閉じるみなも。
彼女の体になにが起きているのか、それはまだ誰にも分らないだろう。
みなもの正体がなんなのかそれすらもいまだにわからないのだから…。
翌日、目を覚ましたみなもは目を見開いて片手を天井へと伸ばす。
ジジ、という奇妙な音と目の調子と体の調子がおかしくなるみなもはぼんやりとしていた。
「いつかは限界がくると思っていた。 けど、こんなに早いとは…」
と、独り言をつぶやくみなもはどこか無表情である。
彼女は体になにが起きているのかすでに理解しているようだ。
「………でも、まだいけない。 いきたいのにいけない」
ぽつりとつぶやいた彼女はどこか悲しそうに片手で目を抑える。
彼女の瞳から涙を流しているようだ。
「どのくらいもつのか…………いや、そうは持たないのはもうわかってるけど。
それより、………わたしがあそこから抜け出してどのくらいたったのだろう」
ぼやきながら昔いた場所を思い出してからまた涙を流す。
もう戻れない、いや………戻るわけにもいかないだろう、なんのために”彼”が逃がしてくれたのか。
でも、本当は一緒に逃げたかった。 それもかなわないことだと理解してもいる。
そんなことを考えながらゆっくりとベッドから起き上がりながら部屋を出てリビングで朝食を食べて、スケブをもち家を出る。
そしていつもどおり、もう見れないだろう景色をスケブに書き留めていく。
油絵で描いたりもするが、今日はなんとなく油絵ではない方にしたのである……。
「………なんの用?とは聞かなくてもわかるけど」
「さすが、プロトタイプ戦争生態兵器だな」
影がかかったので問いかけるがすでに理解しているのか諦めたような様子で顔をあげるみなも。
フードに仮面をかぶった男がそういうと、スケブをもち走り出す。
普通の少女ではありえないくらいの速さ、それに慌てることもなく追いかける仮面の男。
ビルとビルの隙間をかけて走るみなもだが、息もきれてはいない。
もちろん、追いかけてきているやつも息などは切れていないようである……。
薄暗い路地にたどり着くと振り向いてスケブを頬り投げて髪の色が金色になり、目も金色となった。
仮面の男も立ち止まり、楽しそうに笑っていた。
「相変わらず甘いようだな、被害がいかないように安全な場所まで追いかけさせるとはな」
「なんの関係もない民間人を巻き込むわけにはいかないから」
白い羽がまわりでとびちる中で、地面を蹴り、回転するように回し蹴りを仮面の男にくらわすが。
両手で防がれるがすごい衝撃がはしり、火花が飛び散る。
「体の調子が悪いみたいだな、これで全力か?」
「まさか、壊れるまでのリミットを解除していないだけよ」
仮面の男の問いにみなもは口元を微笑みにかえて笑う。
「壊れてしまっては困るんだがな? 回収しなくてはいけないし」
「プロトタイプはそんなに貴重? まあ、最初の傑作品だものね」
仮面の男に地面に両手をついての回転回し蹴りをくらわせながら話す。
だが、それもいなされていく。
調整を最近うけていないものとうけているものの差もあるのかもしれない。
「そうだな、外国に留学していたときに捕らえられてウイルスと遺伝子をいじられて最初に誕生したのはおまえだからな」
仮面の男は手を銃に変えて放つと、手をついて回避して足からローラが飛び出て滑るようにして手についた回転式グローブで叩き込み、ふっとばす。
回転もつきなのでビルを崩壊させるほどの威力だ。
「はっはっはっ……」
息がみなもからもれる。
額から汗がもれている、目の調子もおかしいというのもあるのだろう。
このまま持久戦はまずいとわかっていても、それでも後には引けないと彼女は思ったのだろう。