第四話 マコトという男
「タしカにわカりまセんけド。 こレだケは言いタいでス!
なぜ、契約者を捨てタなンていウんデすカっ!!」
「前にもいったはずだ。 邪魔だからだ」
明香は秀久の前に立ち、叫び問いかける。
とうの本人はまたそのことかという態度である。
「ウソでス! あんナに仲よカっタじゃナいデすカ!! マコ、幸せソウでシた!
なノになゼ!!?」
「ふぅ、わからないやつだな。 契約者なんてなんの役にたつ? 確かにこちらの思う通りに動かすことはできる。 俺たち戦争生態兵器についてこれるのだってかなり難しいんだぞ?」
顔を横にふり、叫ぶ明香を呆れたように見つめるマコト。
それは仲間だったからその様子を見ていたから……知っていたからこそ明香は納得できないのだ。
「あいつが来てからマコはヘンにナりマしタ! なニもカモあいツのセイ!!
そうじゃないと、契約を切るなんてシマセン!」
「俺が変わった? そう思うのならそう思えばいい。 元からの俺はこっちだ」
「マコ、ショーキにもどってクダサイ! あのこだって待ってるハズでス!!」
マコトの冷たい視線にもくっせずに叫ぶ明香の瞳からは大粒の涙があふれていた。
秀久はその様子を見ていた。
「俺はなにも間違ってはいないさ。 お前の方が間違ってるんだぞ? 契約者は重荷でしかないゆえに俺たちのコマでしかない。 そんなやつに命の半分を分け与えるなんて馬鹿げたことを」
呆れたように肩をすくませるマコトはすっと秀久に視線を向ける。
いきなり見られたことに驚きつつも、身構える秀久。
「ヒデ、安全な場所にいて」
とたんに流暢な口調になる明香に言われて戸惑う秀久。
「んなこと言われても………」
「大丈夫、あなたは私が守るから」
そういうと秀久の首輪が光、明香へと光が流れ出す。
ソウルエネルギーチャージというもので契約者とのつながりをもって戦争生態兵器を強くさせることができる。
こちらになると明香の口調も変化して超クールになるのだ。
「お荷物を心配なんてしている場合か?」
「欠損していてもこれくらい、なんでもないわ」
マコトの瞬時の接近に大きな盾を展開して防ぎ、片足で蹴り上げる。
ゴスロリ衣装も白くなっているようだ。
「ぐっ!」
「はっ!」
そして、地面に両足をついて飛び上がると同時に白の翼が背中から生えて、追い打ちの両手を握り締めてましたに落とす。
ずずん、と地面が唸りをあげるような音が響く。
普通なら人が現れてもおかしくないのになぜ誰もこないのかと秀久は不思議に思っていた。
そんなことを考えてうちに二人は上空で拳の乱舞やライフルで打ち合い殴り合いなどをしていた。
それは目にもの止まらぬ速さであった。
くるんと、明香は回転して回し蹴りをして蹴り飛ばすとビルにぶつかる。
「夕べのおかえしよ」
と、たんたんとした口調で返す明香。
普段のあの時の彼女とは違いすぎることにますます困惑してくる秀久。
「はん、こんなのまだまだ全盛期にくらべたら調子が落ちてんじゃねーか?」
マコトが崩れたビルから飛び立つと明香に告げると、彼女は悔しそうに唇をかむ。
まだ、本気を出せないのか秀久のことを気にしているのかのどちらかだろう。
「まあ、魂を半分にわけているんだから当然か。 故障もあるしな」
「そうかしら? これくらいのハンデがあってもいいと思うけど」
マコトの言葉に彼女は動じた様子をみじんも見せないようにして言う。
そして、二人は駆け出してクロスカウンター狙いになるが、片手で抑えてえぐりこむように殴る明香。
マコトは勢いをのせてビルへと吹っ飛ぶとそのまま追いかけて拳を振るうが。
「どうした、今ここで俺をやっておかないと。 おまえの契約者になにか起こるかもしれないぜ?」
「っ!!」
拳を振るうがそれは横にそれてしまう。
どうしてもあの時の二人の光景が忘れられないというのもあるのだろう。
「……………甘いな。 そんなんじゃ兵器失格だぜ?」
「わかってる………。 でも、ここであなたを壊したらあの子が悲しむと思う…。
たとえあなたが契約者を捨てたと言っていたとしても彼女は捨てられたとは思っていないはずだから……。」
壁にもたれたままのマコトに明香はそう言うと、彼は笑った。
「捨てた、俺から捨てた。 それでいいんだよ……」
そういうと彼の姿が消えていく。
悲しそうにそれを見送る明香は月を浴びて綺麗に見えた。
全身が真っ白いからか、それとも神秘的な空気のせいか……。
「明香……」
「秀久。 隠してごめんなさい、でも破損はほんとのことでこうしてあなたとのソウルエネジーをリンクしないとまともに戦えない」
そう答えた彼女はある部分を隠してつげる。
優しく首輪に触れて悲しそうに眼を細めているようだ。
「ごめんなさい、すこし、つかれ、たわ」
「ちょ、まだ聞きたいことが!って遅かった」
そういうと秀久に倒れこむように目を閉じる。
すーすーと寝息を立てている彼女を見てお姫様抱きして自宅へと戻ることとなった。