プロローグ
暗い夜更けの中を一人の少女が屋根の上を飛んで跳ねて駆け抜ける。
暗闇の中でも輝きをなくさない銀色の糸はとても美しい。
「止まれ、このまま逃げ切れると思っているのかっ!」
「おあいにくさま、逃げ切れると思っての行動だから」
そんな少女を追いかける集団の中の一人が叫ぶが少女は気にもしていない。
足を止めることもしていないようだ。
「仕方ない、少し手荒なマネをしてでも動きを止めさせてもらう」
そう、声の主が言うと火球のようなものが飛んでくるが少女が回避する。
まるで動きがよめているかのようだ。
「そんなんじゃ動きを止めることはできないわよ」
「知っているさ」
「っ!? いつのまに!」
逃げながら言う少女にせまりくる、光輝くもの刃物とみてもいいかもしれない。
あの火球の中でどさくさに接近しているものがいたようでブレードのような形状を振るわれる。
なんとか回避するが横腹を負傷し、血をにじませる。
「くっ!」
次につらら状のようなものが鋭利にとがっている氷が続けざまに飛んできて回避していたら、足を滑らせる少女。
そのまま落下してしまう。
そのあとを集団も追いかける。
「っく………外部メモリの破損を確認。 著しい障害の可能性あり……打ちどころが悪かったと思われる」
運よくゴミ箱の上に落ちた銀色の長い髪の少女は蒼い瞳を苦痛にゆがませながら横の腹を抑えてつぶやいた。ぽたぽたと血が地面にしたたり落ちる。
壁にもたれながら荒い息をこぼしつつよろよろと少女は歩きだす。
一目がつかない廃棄された場所で一息をついていると、不憫そうな少年が話しかけてきた。
「あんた、大丈夫か?」
「………?」
少女は疑問に思った、ここになぜ一般人がいるのだろうかと。
「聞こえていないのか?」
「イえ、聞こエてマす。(言語に障害発生)」
会話をしながらも冷静に判断しつつ、笑みを見せる少女。
「怪我しているじゃないじゃないか! 俺んちに」
「そこまでだ。 明香、このまま軍を離脱するというのなら廃棄処分となる。 つまり、死しかない」
少年が立たせようと手をひいてると後ろから声がして視線を向ける少女と少年。
見た目は少年や少女と変わらない少年だ。
「モとカらソのツもリでショ! マコ!」
少女が話しかけてきた少年――風切マコトにそう言った。
会話を聞いている少年は不思議そうに交互に見るが逃げる様子もない。
「なあ、よくわからないんだけど。 喧嘩なんかせずに」
「あブなイ!」
マコトに近寄る少年――上狼秀久をとっさにかばう少女――明香。
見事に腹を貫通し、こぽりと血を吐くのをマコトは無表情で見ていた。
その手はナイフような鋭利なものになっておりそのま引き抜いて血を振るう。
重力に従うままその場で倒れる明香と秀久。
その場に血が広がるが、明香は腹を抑えながら少年を見るが、目を見開いていることに気づき。
滴る血をそのままに秀久に口づけを施す。
「やめろ、そんなことすれば!」
「モとハとイえバ、ワたシのセイです。 ダかラ!」
マコトの焦りに彼女は気にした様子もなく両の手をからませる。
すると、光の本流がほとばしりあたりを包み込む。
秀久の腹の穴も明香の穴もみるみるうちにふさがり、秀久の首に首輪ができる。
彼女を片手で支えながら起き上がる秀久。
「くっ、まだ完全じゃないはずだ! 廃棄しろ!」
マコトの命令に従う黒服の集団は襲い掛かるが、秀久は回避し、弱い部分をめがけて拳や足を叩き込む。
崩れ落ちていく集団をしりめにマコトが口を開く。
「後悔するぞ、明香」
「むしろ、今の状況が後悔しているわよ」
睨むように言うマコトに睨み返し、地面を蹴り、かすりあうように刃をかわす。
そのまますべるように地面に手をついて体制を立て直す二人だが。
「今日のところは勝負はあずけておく。 それまでに傷をなおしておくんだな」
そういうとマコトは飛び上がり、屋根の上をかけていく。
それを見送りながら、両手を見てる秀久と周りに倒れている集団を見て携帯をだして連絡をとり、後処理を頼むと。
「あなたの家に案内して」
「へ?あ、あぁ」
明香の突然の言葉にうなずいて彼は案内することに。
これが彼が戦いに巻き込まれる原因になったのはいうまでもないだろう。