表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/58

第一章 鬼眼(おにつら)一刀流〈2〉

挿絵(By みてみん)


「お待たせしましたあ。チキンドリアのお客さまは?」


 ウェイトレスが大きなお盆をもってあらわれた。


「あ、彼です」


 明宏が一馬をしめす。


「ミックスグリルセットのお客さまあ?」


「彼女です」


 明宏が明日香を示した。ひとつのトレイにハンバーグ、チキン、サイコロステーキがのっている。さらにライスとスープがついていた。


「おあとパーティ・フライドポテトになりますう。ご注文、以上でよろしかったでしょうかあ?」


 大皿のフライドポテトをテーブル中央へ置いたウェイトレスの営業スマイルに明宏がうなづくと、ウェイトレスはテーブルのはしにしつらえられたアクリルの筒へ伝票を入れて去った。


 見ると、一馬が美千代のとり皿へ、明日香が千草のとり皿へ大皿のフライドポテトをよそっていた。目の見えない感知退儺師(たいなし)の相方へ対する日常的な気配りなのであろう。明宏はこのさりげない気配りに退儺師(たいなし)コンビの絆を感じる。


 一馬の前に置かれたチキンドリアと、明日香の前に置かれたミックスグリルセットを見くらべて、

〈……ふつう逆だろ?〉


 桐壺雷華(らいか)が大皿のフライドポテトをつまみながら笑った。


 どう考えても一馬より明日香の料理の方がボリューミーだ。そのセリフに明日香が少し頬を染めた。

〈手鬼舞〉を使った特一級技闘退儺師(たいなし)の明日香の消耗度は、鬼道譜を配置した三級技闘退儺師(たいなし)の一馬よりも激しい。


 中には1回の戦闘で寝こむほど疲弊(ひへい)する技闘退儺師(たいなし)すらいる。


 今の明日香なら400gのサーロインステーキセットでもペロリとたいらげられるが、これでも人目を気にして遠慮した方だ。



     2



 食事をはじめた一馬と明日香のかたわらで、明宏は千草へたずねた。


「〈忌人譜(きじんふ)〉を発明した退儺(たいな)六部衆の〈創譜師〉って、そんなにスゴイ人なの?」


「たは~、あんた〈創譜師〉金壺金龍斎を知らないの?」


「……知るわけないだろ」


 明宏はおよそ1ヶ月前まで土鬼蜘蛛(つきぐも)のことも退儺師(たいなし)のことも知らなかった一介の素人である。


 退儺(たいな)六部衆の〈張界師〉亀鞍要(かめくらかなめ)〈百眼〉椎名季武(すえたけ)〈修復師〉有坂有里、そして眼前にいる〈羅刹姫(らせつき)〉桐壺雷華(らいか)には、知識として知るよりも前に会っている。


 しかし、のこり2名の退儺(たいな)六部衆については名前すら知らなかった。


「〈創譜師〉金壺金龍斎は、鬼道譜の革命児って云われてんの」


 千草は小さく舌打ちすると、あたかも目が見えている人のように自然な動作でフライドポテトをつまんだ。


「〈ケッカイフ〉ってあるじゃん」


「……大きい方、小さい方?」


「小さい方に決まってるでしょ」


 彼女たちの会話は〈念話〉で全員に中継されている。桐壺雷華(らいか)と美千代はうなづいたが、明宏にそんな退儺師(たいなし)の常識はない。


 鬼道譜には技闘退儺師(たいなし)のみ使用可能な大判の鬼道譜と、感知退儺師(たいなし)や明宏のように退儺師(たいなし)の力がない人間にも使用可能な小判の鬼道譜がある。


 漢字で書くと、大判の鬼道譜は〈結界譜〉小判の鬼道譜は〈結界符〉となる。


退儺師(たいなし)のベストの背中にほどこされている大判の〈結界譜〉は、かなり昔からあったんだけど、小判の〈結界符〉は、昭和初期に〈創譜師〉金壺金龍斎が発明したものなの」


 明宏はかたわらに置かれた紙袋の中の退儺師(たいなし)のベストに目をやった。


 明宏・明日香・千草・美千代のものである。ベストのポケットには〈鬼爆符〉や〈結界符〉が入っているので、土鬼蜘蛛(つきぐも)との戦闘の際に着用するが、普段着として着用するには抵抗がある。ひらたく云うと、ダサイ。


「基本的に鬼道譜は土鬼蜘蛛(つきぐも)にしか反応しないから〈鬼爆符〉や〈鬼斬譜〉で人が傷つくことはないでしょ?」


 退儺師(たいなし)が念をこめた〈鬼爆符〉や〈鬼斬譜〉を人が踏んでも爆発したり斬りさかれることはない。


「だけど、小判の〈結界符〉を打つと、人を守るように宙にうくじゃない?」


「うん」


 これまで戦闘中に何度かその光景を目撃している明宏がうなづいた。


「あれって無害だけど人や場所にも反応してるってことなの。人に反応する鬼道譜をはじめて作ったのが〈創譜師〉金壺金龍斎」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ