表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/58

序章〈4〉

挿絵(By みてみん)


 5~6mはあろうかと云う巨大なバケモノが、緑色の光の中から完全に姿をあらわすやいなや、見えない力で全身を斬りきざまれた。


「キシャァァァァ!」


 土鬼蜘蛛(つきぐも)苦悶(くもん)すると白い血をまきちらした。〈鬼斬譜〉のトラップを踏んだのだ。


「これにて一件落着なのです!」


 土鬼蜘蛛(つきぐも)からもっとも遠いところで待機している美千代の無邪気な歓声を明宏が制した。


「いや、まだだ!」


 土鬼蜘蛛(つきぐも)はかなりの深手を負っていたが致命傷ではなかった。白い血にまみれた巨体がじりじりと起き上がる。


 一馬がベストのポケットからこまやかな紋様の描かれた小さな和紙を数枚ぬきだすと、土鬼蜘蛛(つきぐも)へ投げつけた。


 和紙はツバメのような勢いで土鬼蜘蛛(つきぐも)へ向かって飛び、その身体に触れると爆発した。〈鬼爆符〉である。


 土鬼蜘蛛(つきぐも)が痛みで激しく身をよじった。大きなハサミをもつ腕がムチのようにしなって退儺師(たいなし)たちへおそいかかる。


 しかし、退儺師(たいなし)たちは冷静だった。退儺(たいな)の刀をもつ明宏が土鬼蜘蛛(つきぐも)の2本の腕をまたたく間に一刀両断した。


「アスカ、よろしく!」


 千草の言葉にぬばたまの黒髪を風になびかせて少女が動いた。


 少女の右手がたちのぼる炎のような動きで優雅に舞う。その手を土鬼蜘蛛(つきぐも)へ向けてはらうと、すさまじい炎が巨大な土鬼蜘蛛(つきぐも)を包みこんだ。


「ゲヒィィィ……!」


 激しい炎に焼かれて土鬼蜘蛛(つきぐも)が断末魔の悲鳴をあげた。肉の焦げるイヤな臭いがあたり一面にひろがる。


 土鬼蜘蛛(つきぐも)は緑色に光ると、ブラックホールヘ吸いこまれるかのように、まるく収縮して消えた。


 炎の熱気もヒドイ臭いも白い血の痕も瞬時に消え、巨大なバケモノのあらわれた痕跡はまったくのこっていなかった。 


 先刻、3人のチャラい若者にかこまれて困っていた清楚可憐(せいそかれん)な美少女が、眉ひとつ動かさずに体長5~6mははあろうかと云う巨大なバケモノを焼き殺した。


 特一級技闘退儺師(たいなし)にしか使えない〈手詞鬼道(しゅしきどう)〉通称〈手鬼舞(しゅきまい)〉とよばれる大技である。


 美少女の名は霧壺明日香。明宏や千草と同じ、私立台和(だいな)高等学校2年生である。



     4



「……これがホントの一件落着ってなもんよ」


 自分の手柄であるかのように起伏のとぼしい胸を張る千草の背後から、拍手と〈念話〉が響いた。


〈まずまずの手際だったが、一馬と云ったか?〈鬼斬譜〉への念のこめかたが甘いな〉


 明宏以外の退儺師(たいなし)たちが緊張した。


 土鬼蜘蛛(つきぐも)を退治すると土鬼蜘蛛(つきぐも)の張った結界は消えるが、いまだ〈忌人符(きじんふ)〉の発動している状況下で、ふつうの人間がこの場所へ近づけるはずはない。


 彼らのもとへ歩みよってきたのは、意外な人物だった。


 背の高いモデルのような金髪美女である。


 けだるげにかき上げた長い前髪の下から左目の上にハートを斬り裂く刃の刺繍(ししゅう)された黒い眼帯がのぞく。隻眼(せきがん)である。


 ターコイズブルーのアヤシげな刺繍(ししゅう)が全体にほどこされたピンク色のジャージに、皮製の黒く長いバットケースを肩にかけていた。


 一見すると、時代錯誤なレディース(女暴走族)の総長だが、彼女たちは一度だけ共闘している。


 伝説の超級技闘退儺師(たいなし)退儺(たいな)六部衆のひとり〈羅刹姫(らせつき)〉桐壺雷華(らいか)である。


「あ、ライカさん、先日はありがとうございました。……今日は、どうしてこちらへ?」


 千草が桐壺雷華(らいか)への〈念話〉を声にだしてたずねた。彼女のクセであり、明宏へ対する無意識の配慮でもある。全員、桐壺雷華(らいか)へ頭を下げる。


「……ひょっとして、ミチヨたちの加勢にきてくださったですか?」


〈……たかが1匹の土鬼蜘蛛(つきぐも)相手に、わざわざ私がでばるわけないだろう? ちょっと刀の少年に興味があってな。方相寺へ行ったら、土鬼蜘蛛(つきぐも)退治へでかけたって云うから〈創譜師〉のジジイがこしらえた新作の〈忌人符(きじんふ)〉も見てみたかったし、よってみた〉


「明宏クン。ライカさんはあんたに用があるんだって」


〈念話〉の聴こえない明宏へ千草が通訳した。


「……ぼくに用ですか?」


 自分を指さしてみせた明宏へ〈羅刹姫(らせつき)〉桐壺雷華(らいか)婉然(えんぜん)とほほ笑んだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ