表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/58

第三章 真夏の夜の悪夢〈13〉

挿絵(By みてみん)


「千草さんはさがって! アスカさんは千草さんをたのむ!」


〈話はあとだ、ジジイ!〉


 明宏の言葉を〈念話〉で中継された明日香が千草を背に洞窟(どうくつ)から距離をとり、明宏と雷華(らいか)はヘッドライトを点灯して刀をかまえる。


 (くら)洞窟(どうくつ)のなかからギチギチと大きく耳ざわりな羽音がいくつもきこえてきた。洞窟(どうくつ)をてらすあかりにブキミなかげが踊る。


 明宏と雷華(らいか)がその正体を知るよりも先に、5体の黒いかげを斬りおとしていた。ここでは羽音のきこえる明宏の方が、視界の不備をおぎない、俊敏(しゅんびん)に対応できる。


「……土鬼蜘蛛(つきぐも)じゃないよな?」


 斬りおとした謎の襲撃者をヘッドライトで確認した明宏がまゆをしかめた。


 地面にころがっていたのは体長1mほどの巨大でグロテスクな生物だった。しいて云えば外殻(がいかく)を有する(むし)に近い。


 大きな羽とハサミをもつエビのような未知の巨大蟲である。小型の土鬼蜘蛛(つきぐも)と云っても過言ではないが、土鬼蜘蛛(つきぐも)に空を飛ぶ能力はない。


〈これは式神蟲(しきしんちゅう)!? 陰陽師の低級つかい魔ですね〉


 明日香の言葉に雷華(らいか)が小さくうなづいた。


「うわっ、なにこのニオイ、くっさっ! ……明宏クン、これ式神蟲(しきしんちゅう)って云うんだって」


 式神蟲(しきしんちゅう)の死がいからただよう生ぐさいニオイに千草が閉口した。


〈チグサ、奥にだれかいる気配は?〉


 舌打音を洞窟(どうくつ)へはなった千草が首を横にふった。エコーロケーションで探知できる範囲に人影はない。


(……てことは、陰陽師が意図的にはなったものではなく、呪符(じゅふ)による自動迎撃システムか。しかし、なにに反応した? 人の気配か、土鬼蜘蛛(つきぐも)の波動か、それともこいつか?)


 雷華(らいか)は黒ずんだ緑色のネバっこい体液でぬれた〈蜘蛛切(くもきり)〉の太刀をみつめた。


蜘蛛切(くもきり)〉の太刀と明宏の退儺(たいな)の刀は退儺(たいな)の波動、すなわち鬼道の波動をはなっている。


 よしんば、呪符(じゅふ)が鬼道の力に反応したのだとすれば、呪符(じゅふ)をしかけた陰陽師が敵視しているのは退儺師(たいなし)である。


 雷華(らいか)が片手でかまえた大太刀に念をこめると〈蜘蛛切(くもきり)〉の太刀が赤くやわらかい光沢をはなった。


 するとその光に呼応するかのごとく、ふたたび洞窟(どうくつ)のなかからギチギチと耳ざわりな羽音がきこえてきた。


「ライカさん! またです!」


(やはりか……)


 洞窟(どうくつ)から猪突猛進に飛来する3匹の式神蟲(しきしんちゅう)を明宏と雷華(らいか)で瞬殺した。一刀両断された式神蟲(しきしんちゅう)の死がいがにぶい音をたてて地面へころがりおちる。


土鬼蜘蛛(つきぐも)にかかわるなにかを陰陽師の連中が退儺師(たいなし)からかくしていて、あのジジイもなにか一枚かんでるってことか? ……おもしろくねえな)


 退儺師(たいなし)と陰陽師はおなじ陰陽省の別部署に所属しており、敵対関係はない。


〈チグサ、土鬼蜘蛛(つきぐも)の気配は?〉


「まったくうごきはないんですけど波動だけは強まってます。なんか爆発とかしそうでヤバい感じ」


土鬼蜘蛛(つきぐも)が爆発?〉


 千草の言葉に明日香が首をかしげた。前例もないし、自爆してくれればそれでおわりではないかと明日香は思う。


〈チグサ、少年にもつたえろ〉


 そう云って雷華(らいか)がつづけた。


〈みんな用心しろ。敵は土鬼蜘蛛(つきぐも)だけじゃない。この先にはだれか〈人間〉の悪意がある。どうやら洞窟(どうくつ)にしこまれたトラップは鬼道の力に反応するらしい。極力、鬼道の波動をおさえつつすすむぞ〉


 雷華(らいか)の言葉に明宏たちが諒解(りょうかい)した。明宏を先頭に明日香、千草、雷華(らいか)の順で洞窟(どうくつ)へと足をふみ入れる。


 入り口こそ自然の洞窟(どうくつ)だったが、数mもあるくと天井高が3mほどある半円形の人工的なトンネルがつづいていた。足元もコンクリートでたいらに舗装されている。


「……防空(ごう)跡みたいですね」


 ヘッドライトのあかりでぐるりを見まわした明宏がおかしなものに気がついた。


 コンクリートと同系色で彩色されていたので看過していたが、半円形の壁面に何千枚もの呪符(じゅふ)がびっしりとはられていた。


「ちょっとこれって……」


 イヤな予感しかしない明宏がつぶやくと、壁面中の呪符(じゅふ)がうにゅうにゅとうごめき、一斉に式神蟲(しきしんちゅう)へと変化しはじめた。


 あたかもそこは式神蟲(しきしんちゅう)まみれの巣だった。


 非常勤講師のインディ・ジョーンズ博士が蛇だらけの洞窟(どうくつ)へ迷いこんだ時のようなおぞましい光景に、目の見えない千草以外の退儺師(たいなし)たちの背筋に悪寒が走った。動揺するヘッドライトの光に見えかくれするブキミなかげに身の毛がよだつ。


 さすがの雷華(らいか)もせまく(くら)い通路の最後尾で明宏たちをかわしながら数千体の式神蟲(しきしんちゅう)と闘うすべはもたない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ