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第三章 真夏の夜の悪夢〈11〉

挿絵(By みてみん)


 明日香と雷華(らいか)へ〈念話〉で一応の状況説明をした千草は〈念話〉のつうじない明宏をおこすために〈(すみれ)の間〉へむかったものの、明宏はいなかった。


 即座にトイレか露天風呂にいると判断した千草が、露天風呂で明宏を見つけた顛末(てんまつ)は先刻ご承知のとおりである。


 退儺師(たいなし)たちは登り(がま)のわきをとおりぬけ、山道へと足をふみいれた。


「……まだ土鬼蜘蛛(つきぐも)の正確な位置がつかめてないから、肝だめしの終点につく前には退儺(たいな)の刀をだしといて」


「わかった」


 千草の言葉に明宏がうなづいた。明宏の右腕にやどる退儺(たいな)の刀は瞬時にだし入れすることができず、現出するまで2分ほどかかる。そのための念おしだ。


「あと、それから……」


「なに?」


「……あんたも男ならアスカのブラのホックくらいとめてあげんさいよ。そんでもって、どさくさまぎれにうしろからはだかで抱きしめちゃうとか」


「……どうしてそうなるっ!?」


「アスカも明宏クンの身体をふいてあげるくらいしなきゃ~」


〈千草ちゃんっ!〉


 狼狽(ろうばい)する明宏とアスカに千草がひゃっひゃっひゃっ、と笑った。異常事態がひかえているにもかかわらず、どうしてもふたりをからかわずにはいられない千草である。


〈おいおい少年、そりゃ一体なんの話かな~?〉


 千草から〈念話〉で会話の中継されている雷華(らいか)がうしろから明宏の肩に組みついた。いまだ酒のぬけきっていない雷華(らいか)隻眼(せきがん)がアヤしく光る。


 雷華(らいか)が明宏の背中にやわらかなダイナマイトバストをおしつけながら、はむはむと明宏の耳たぶを甘がみした。


「ちょ、ちょっと、ライカさん!? お酒くさい口でなにしてるんですかっ!」


 明宏の抗弁も耳のきこえない雷華(らいか)には馬耳東風である。


〈ライカさん!? あ、明宏さんにヘンなことしないでくださいっ!〉


〈おやおやアスカ。ひょっとして()いてる?〉


〈や、()いてませんっ!〉


〈ほれほれ少年。アスカと私のおっぱい、どっちが気もちよ……ぶばっ!〉


 無言で明宏を挑発する雷華(らいか)がふたたびマーライオンと化した。


「わあああっ! ライカさん、人の肩ごしに()かないでくださいっ!」


 耳と〈念話〉で状況を把握した千草が笑い、明日香が〈念話〉で叱責(しっせき)した。


〈ちょっともう、みんな緊張感なさすぎっ!〉


 被害者の明宏に明日香の〈念話〉はとどかなかったものの、同意見であることは言を()たない。



     10



 退儺師(たいなし)たちが玄関前からこっそり移動をはじめた時、玄関のかげからそのようすをうかがう者がいた。詩緒里である。


 目をさましたのは偶然だった。暗い部屋で気がつくと明日香と千草がいなかった。ふとんはもぬけのからである。


(あれ? アスカさんと千草さん、どこいったんだろ? トイレかな?)


 寝ぼけた頭でそう結論づけると、詩緒里は自分のカバンのサイフから小銭をあさった。なんとなくのどが(かわ)いたので、ジュースの自動販売機でなにか買おうと思ったからだ。


 自動販売機は正面玄関むかいの階段わきにある。トイレからもどってくるふたりとでくわすかもしれない。


 詩緒里が小銭を手に自動販売機へむかうと、玄関とびらの外に小さなあかりがともっていた。(くら)くてはっきりとは見えないが、数名の人影がたむろしている。


(……明宏とアスカさんたち?)


 雰囲気で察した詩緒里がいぶかしんだ。こんな夜おそく、明宏たちが詩緒里だけをのけ者に鳩首(きゅうしゅ)している理由がわからなかった。


(明宏のヤツ、私をハブってなにしてんだろ?)


 猫をも殺す好奇心が詩緒里の内でもこもこと鎌首をもたげた。


 数名の人影が登り(がま)のある方へ足をむけると、詩緒里も〈燕子花(かきつばた)の間〉へとってかえし、あわててジャージに着がえた。


 玄関をでると、いくつかの小さな光が明滅しながら登り(がま)わきの山道をのぼっていくところであった。


(あれって、さっきの肝だめしコースじゃん。なんか、おとしものでもしたかな?)


 肝だめしのあと〈燕子花(かきつばた)の間〉においてあった懐中電灯やヘッドライトが見あたらなかった。ヘッドライトがひとつだけのこされていたので、明宏たちに気づかれないようあかりを手でかくして足元だけをてらしつつ、かけ足で急ぐ。


 こっそりあとをつけておどかしてやる算段であった。詩緒里も剣術家なので、こう云う時の動作は機敏(きびん)でそつがない。


 山道に入った詩緒里は山の斜面へそうように身をひくくしてあとをつけた。明宏たちは隠密行動かと思いきや、なにやらざわざわと楽しげにもめている。


(ホント、なにしてんだろ? もうちょっと近づかないと会話とかきこえないし……)


 詩緒里が中腰のままあるきかけた時、目の前を大きな青白い()が音もなくふわりと舞った。ほのかに香る鱗粉(りんぷん)を吸いこんだ詩緒里はしずかに意識をうしなった。

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