第二章 海と登り窯〈13〉
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女子たちのカメラマンに徹した明宏が詩緒里へスマートフォンをかえすと、千草がこっそりちかづいてきた。
「明宏ク~ン。はいこれ」
千草が明宏へ手わたしたのは彼女のスマートフォンだった。
「なにこれ?」
意味がわからず首をかしげた明宏へ、千草が悪代官の笑みをうかべた。
「さっきの話、のった。これでアスカの水着姿をじゃんじゃか撮りんさい。夏休みあけにクラスで売りさばけば、私たちちょっとした小金もちよ。大丈夫、分け前は6・4で手を打とう。私が6。明宏クンが4」
「……自分でやりなよ」
明宏があきれて肩をすくめると、千草が抗弁した。
「私は目が見えないから、明宏クンに頼んでんじゃん」
「目の見えないことをたてにして、悪事の片棒をかつがせようとするなっ!」
「おやおや? 明宏クンはアスカの水着写真、ほしくないのかな~?」
「え? いや、それはその……」
思わず赤面して動揺する明宏へ女悪魔がささやきかける。
「きっとアスカも明宏クンになら撮ってもらいたがると思うんだけどな~」
もう一押し、とばかりにたたみかける千草の背後へ影がさした。
〈……チ・グ・サ・ちゃん〉
水着の上からパーカーをはおった明日香が、こめかみにブッ太いドラゴン怒りの血管をうかびあがらせながら立っていた。
「おりょ? どどど、どったのアスカ?」
背筋の凍るような明日香の気配に気づかぬふりで千草がたずねると、明日香の〈念話〉が冷淡にこたえた。
〈……千草ちゃん。いつものくせで〈念話〉だだもれ〉
退儺師として明日香や明宏とチームを組む千草は、つねに自分たちの会話を明日香で〈念話〉で中継する習慣が身についている。そのため、千草のよこしまなくわだては、まるっと明日香へ筒ぬけになっていた。
「たはっ! ぬかった、しくじったああっ!」
〈千草ちゃんっ!〉
「たは~っ! ごめんアスカ、冗談だって!」
〈ゼッタイ、うそ!〉
いきなり追いかけっこをはじめた千草と明日香の姿に詩緒里が小首をかしげ、明宏がヤレヤレと嘆息した。




