第二章 海と登り窯〈7〉
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退儺師一行が部屋へもどろうと玄関前にさしかかった時、階段の上から穴森夫妻を引率する西尾と鉢あわせした。
「あ、みなさんちょうどよかった! これから窯焚きをはじめるところです。登り窯へいらしてください」
西尾の手話(と口話)に一馬たちがうなづいた。
〈明宏くんと詩緒里ちゃんもよんでこなきゃ!〉
明日香の〈念話〉を見すかしたかのように、厨房から顔をだした萌絵が西尾に云った。
「あとのふたりは私がつれて行くから~、あなたたちは先に行ってて~」
なぜ萌絵が厨房にいたのかは、手にしていた日本酒・純米生原酒から火を見るよりあきらかだ。酒の補充である。
「うん。よろしくモエちゃん!」
西尾が萌絵に手をふると〈燕子花の間〉から詩緒里と掃除機を手にした明宏がでてきた。
「あ、清水センセイ。おふとんとりこみおわりました。掃除機はどこへ片づければいいんですか?」
詩緒里の問いに萌絵がうなづいた。
「あとは私がやるからいいわ~。みんな登り窯を見に行ったから、あなたたちも行って~」
「はい」
明宏が萌絵に掃除機をわたすと、萌絵は掃除機と酒ビンをかかえて自分の部屋へ消えた。
「登り窯ってどんなんだろ? はやく行こっ、明宏!」
詩緒里にせかされて玄関をでると、拝殿奥へむかってあるく明日香たちがいた。明宏と詩緒里は小走りで彼女たちの背中を追う。
拝殿からつづく本殿のさらに奥、山の傾斜にそって三角の屋根が見えた。
「ほほう。これが登り窯ですか」
大膳の言葉に西尾がうなづいた。
三角屋根の下にあったのは、山の傾斜につらなる巨大な土のカマクラだった。巨大イモ虫の背中みたいな半円形のドームが3つたてにならんでいる。上段のものほど大きいようだ。
屋根の梁にしめ縄が張られていて、その奥に黒々とした窯神の面が飾られていた。
本来はひょっとこ(火男)を擬した荒神の面だが、退儺師の窯と云うこともあって方相氏を擬した4つ目の荒神だった。
しめ縄の下に位置する焚き口の上にお神酒をそなえていた男性が一行に気づくと自己紹介した。
「やあ、みなさんいらっしゃい。私は金龍斎先生の娘婿で陶芸家の大久保彦馬と申します。いつも一馬がお世話になっています」
「はじめまして。私は穴森大膳と云います。今回はお世話になります」
大膳の挨拶にみな頭を下げた。
「このあと焼成室をふさぎますので、ちょっとだけ中をのぞいて見てください」
「こちらです」
西尾が先頭に立って一行を案内した。登り窯の左側をあるく。
「登り窯はこう云った山の傾斜を利用して、下からの余熱を効率的に活用しながら焚きあげるんです」
かつては全国の窯元で陶器を大量生産するためにもちいられた窯だったが、平易に温度を管理調節できるガス窯や電気窯の普及で廃れた。
「ここはあくまで金龍斎センセイ個人の窯なので焼成室は3つしかありませんが、大量生産用の登り窯の焼成室はもっと大きくて、10室前後あります」
「これでも充分大きな気がするけど」
陶芸についてなんの知識もない明宏がつぶやいた。
土でできた巨大カマクラひとつひとつが陶器を焼きあげる焼成室である。
焼成室は耐火レンガで組みあげられ、外側を粘土などで塗りかためてある。1室3~4畳ほどはあろうかと云う空間に皿、椀、壺などの陶器がぎっしりとつみあげられていた。
焼成室の側面には人が陶器を運び入れるための搬出入口がもうけられているが、その下半分はレンガでふさがれていた。
『これはこのままなんですか?』
明日香の手話に西尾がこたえた。
「焼成室側面には作品の搬出入口がありますが、これは耐火レンガと粘土でふさぎます。各焼成室に小さな四角い穴があるでしょう? 色見孔って云うんですけど、焼成中はそこから炎の色を見て、窯の中の温度を確認したり、薪をくべたりします」
西尾の説明を聴きながら、詩緒里が目の見えない千草の手を搬出入口や小さな穴にふれさせた。
「あ、これかあ」
搬出入口に頭を入れた千草が窯の中へむけて舌打ちした。
「ホントだ。けっこうびっしりならべられているんだね」
「え? わかるんですか?」
詩緒里へささやいた千草に西尾がおどろいた。




