プロローグ
このサイトでは初めましてですの『 黒兎』です
本来は別の小説サイトで活動中なのですが、一次創作はこっちで書こうと思い至った次第で書かせてもらいました
正直、一次創作は初めてなので、至らぬ点なども有るかもしれませんが、生暖かい目で見守ってもらえると有り難いです(この作品が続くかは未定。もし………虚数の彼方の確率で感想が来て、続きが気になるとか言われたら、有頂天になって書くかもしれません。案外、安っぽい人間なので)
“吸血鬼”。
俗にそう呼ばれるものは、生き血を吸って死界から現界へと蘇り戻ったとされる人間……つまり、人の形をして、人ならざるもの。
純粋な力は人間を優に越え、人間では有り得ない身体形状変化……よくある蝙蝠や狼などの動物、又は霧や蒸気などの掴みようのない気体にさえ、変化出来るのだ。
加え、卓越した催眠術なども兼ね備えている場合があり、やはり人とは言い難いのだろう。
だが、反面、弱点というのも多く存在する。
一般的に普及しているものを挙げるとすれば、日光に弱い、ニンニクや匂いの強い香草の類に弱い、十字架、聖水のような宗教的な象徴とされる物を持つ者の信仰に弱い……………と色々と弱点もあるのだ。
―――と、ここまで吸血鬼に関するアレコレを説明してきた。
が、一度考え直してほしい。
実際に―――――吸血鬼がいたことなどあったのだろうか?
仮にその質問を今の社会に生きる人々に尋ねてみると、「馬鹿馬鹿しい」「昔の人の妄想でしょ」「いたら、この世界は終わってる」…………と、まぁ色々な回答が返ってくるのが想像に難くないのだが、共通する理だけは確かに存在していた。それは―――
――――――吸血鬼なんて存在するはずがない。
結局はこの理に通じてしまうのだ。
ならば、何故いないと断定することが出来るのだろう?
本当は血気盛ん、豪華絢爛に包まれた歴史の影にひっそりと生きていたかもしれないというのに。
そして、これから続くお話は、太古の昔に生きていた吸血鬼の唯一の生き残りにして、人として欺きながら生きようとする最悪の犯罪者のお話。
人としても、吸血鬼としても、決して受け入れられることの無かった…………孤独な少年の物語である。
さぁ――――――物語を始めよう。
―――*―――*―――
そこは街だった。小規模な都市と言っても差し支えないだろう。ただそれでも賑わっていた。
街明かりは今が夜だということも相成り、ただただ眩しく見えて…………街中の建物の屋上に立つ少年はそっと視線を外す。
毎日、毎晩のように見るこの景色は少年にとっては“憧れ”であり、同時に“憎むべきもの”でもあった。
「はぁ…………」
自覚すると溜息が漏れる。…………もっとも、今の溜息にはもう一つ意味があったのだが。
耳を澄ませば、背後―――屋上に通ずる唯一の階段口から聞こえてくるドタバタした音。複数人の足音が響き、段々と音量を増している。つまりは近付いてきているということ。
故に溜息。
一体、何度繰り返せば気が済むのだろう。
何度も少年は自分で考察したが、いつも出てくる答えはただ一つ。
「俺を捕まえる、までなんだろうなぁ」
賑やかな街の喧騒で掻き消される声量で言葉を発した瞬間、背後十数メートルにある扉が破り開かれ、雪崩れ込んでくるは複数人の男。毎度毎度、少年を追ってくる迷惑な人たち、警官である。
「連続殺人鬼、ようやく追い詰めたぞ」
「毎回、お疲れ様です………というか、そろそろ諦めてくれね? こっちもゆっくり生きたいんだけど」
「なら、貴様が大人しく捕まって、牢屋の中でゆっくり過ごせばいいだろう。………まぁ、貴様のしてきたことを鑑みれば、死刑確定だがな」
死刑確定。
そう言われ、少年はこの街での殺人人数を大雑把に思い出す。あれは確か………
「今晩か昨晩ので28人目、だったな」
「おお、警官殿の方が俺より殺した数知ってるじゃん。そっか………もうそんなに」
もう、少年は殺した人の顔、特徴、そして人数など真面目に思い返すことはとうの昔に忘れていた。
殺すのは自分が生きるため。
本来は人間よりも強いはずが、人間よりも儚い命を細々と生き繋げるためだけの行為なのだから。
「―――もうそれだけ殺したんだ。今日こそは大人しく捕まれよ」
「その言葉で大人しく捕まる奴とかいるの? ただのバカだろ、そいつ」
警官の言葉に呆れて返す少年は今日初めて、警官の方を見据える。
生まれつきの紅玉のような赤い瞳に夜の闇のような黒髪を持つ少年は―――
「じゃあ………今日も始めようか」
何時まで経っても変わらず、終わることの無い、悲しい悲しい逃走劇を……………