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第6羽-3 着地、できないなぁ

 紗弓はその後、もう一度それぞれの動画を見直してから、自分のプロデューサーに連絡を取り地下のレッスンルームの使用許可を貰う。

 お昼に母お手製のお弁当を食べてから、やって来た。格好はジャージになっている。簡単に生身で準備運動をしてから、偶像領域を展開させて今度は異能力込みでの準備運動をする。

 ほどよく身体が温まったところで、まずは一つ、思いついたことをやってみる。片方の足を挙げて、そのまま蹴りを放つ、一度だけではなく何度も連続で。初めは確かめるように一発一発を虚空に見舞う。一旦足を下ろす。それから今度は一息で連続蹴り。

 疲れてきたなと思ったらやめる。


「はっ、ふぅ……。やっぱり、初音ちゃんみたくは無理かなぁ」


 ナインボール・ショットを蹴りで再現できたなら、〝蛇卵の型〟にも白き翼にも対する武器になると考えたのである。


「ま、まぁ、一回でできるはずないよねっ。わたし、武の才能ないし。初音ちゃんだって努力したんだろうしっ!」


 と強がってみるものの、残された時間は二週間、それで本当にナイン・キックが完成させられるかはわからない。できないことの方があり得るくらいだ。

 だとすると、別の方策を考える必要がある。前方から攻められないのなら、後ろから。そう考えるのは自然なことだろう。


「うーん……でもなぁ……」


 初めて異能力に目覚めた日、あのときは無我夢中で、頭上を跳び越えての攻撃だったが落椿で躱された。直角三角形の軌道から背面攻撃、こちらは使っていないが、にぬ奈以外に躱されたり防がれたりしている。全体的な成功率は高いが、にぬ奈に通用するかどうかが問題だ。する気がしない。


 紗弓はぱっと横に跳んでみる。

 そして、いつものように斜め前に跳ぼうとして、やめる。


「……今、止まった」


 真横へのジャンプ、その着地で一旦動きが停止してしまう。

 また、相手との距離にも寄るが斜め前には二段、三段跳びになることもある。時間が掛かっている。つまり遅い。


「もっと、こう……なめらかーな……?」


 頭に葉波耶が浮かぶ、彼女はまるでスケートのように滑る。

 だが自分にはできない、ジャンプはどうしても直線的になってしまう。


「う? うー……?」


 それでも紗弓は頭を捻って考える。

 脚も使って考える。

 小一時間ほど頑張ってみたが、なにも思いつかなかった。


 頭と脚を休ませてから今度は部屋の角に向き合う。

 助走はつけずに、壁に跳びつきすぐさま逆の壁に跳び移る。

 それを繰り返すことで登っていき、最後に天井を蹴って下におりる。

 フルムーン・ボムと名付けた技と違うのは、勢い、それから膝を折り曲げていない点。四回目でようやく助走をつけて、膝を折り曲げ、完成形をやってみる。標的のないその技は紗弓を床に激突させる結果になった。


「いたた……」


 実際痛みはそれほどではないのだが体感した衝撃のあまりそう零してしまう。

 紗弓は床に大の字になって少し休む。


「着地、できないなぁ」


 だから、もしも躱されたなら自爆することになる。

 にぬ奈との闘いでこれを使えば、必ずやそうなるだろう。

 だからこそ使いたい、使わなければならない。

 予想を裏切る闘いが必要だ。

 そしてそれこそ弱者が強者に勝つすべだと、紗弓は経験上知っていた。

 そうして勝ちをぶん獲ってきたアイドルをたくさん見てきた。


 彼女たちに比肩するためには「練習、練習……練習」ただあるのみ。

 紗弓は跳ね起きて、また壁に向かう。

 何度だって向かってやる。


「あー……流石に疲れたぁ……」


 すっかりくたくたになった紗弓は、そうぼやきながら帰途に着く。

 名残惜しいものの、レッスンルームの使用時間が来てしまった。

 日も伸びてまだ明るいから、なおさら勿体ない気がする。

 いや、足りないのだ。彼女に勝つためには、これでは。


「プロデューサーに相談してみよっかな」

 身体は疲労を覚えても、精神はそうではなかった。


「そうだっ!」

 ふと思いつく。


 駅から家まで走ろう。黄子も緩急つけながらよくやると聞いたし、こういう結界外のトレーニングでスタミナをつけることは大事だ。

 くたくたになったとは言え、途中、歩きを挟みながらならできそうだ。

 紗弓は軽く流すような調子で走り出した。


 家の近くまで来て、ふと子供の声を耳にして、なんとなく足を止めた。

 どうやら公園からだ。小さい頃によくここで、友達とアイドルごっこをしたものだ。今となっては、その友達の顔も名前も思い出せないけれど。


 今、遊んでいるのは幼稚園生くらいの子だろうか。芝生の上にロープの輪っかを並べてある、縦に一つずつかと思いきや時々二つが横並ぶ。子供たちは輪っか一つにつき、足一本が入るようにぴょんぴょこ跳んでいく。いわゆる、けんけんぱというやつだ。


「……あれ?」

 何かが頭を過った気がする。

 はっきりしたことはわからない。


 次いで思い出す。

「わたしもやったことあるなぁ」


 けんけんぱ、しっぽとり、手押し相撲、手鞠歌、はないちもんめ……母に教わった。この近辺で今でもこうした古い遊びをたまに目にするのは、かつて幼稚園で働いていた母が理由だろう。アナログな遊びが好きな人なのだ。


「……っていうか、いるしっ」


 子供たちの親だろう、ベンチに座って遊んでいるのを見ている大人たちの脇に、紗弓の母も立って談笑していた。慌てて駆け寄る。母はすぐに気付いた。


「おーっ! さゆちゃんじゃん、おかえりー。早かったね。特訓はもういいの?」

「ただいまっ。今日はもう終わりだけど、明日もまたやるよっ。で、なにしてるの?」

「やー、買い物しようと思って出かけたらねー、こちらの山口さんに会って、まぁ話の流れ? みたいなんで子供たちに昔の遊びを教えることになってねー。わたしが働いてたときは、園でやってたんだけど最近は……」


 山口さんとは紗弓も知らない仲ではないから、にこやかに挨拶を交わす。


「アイドルになったんですって? すごいわねぇ。今のうちにサイン貰っちゃおうかしら」

「いえいえそんなっ、まだまだですからっ」


 少し話して他のお母さんたちにも会釈をした。


「……それでママ、お買い物は?」

「あ、買い物はちゃんとした後だよー。そろそろ解散しよ思ってたし、いっしょに帰ろ」

「う、うん」

「よーっし、みんな! もうばいばいの時間だよー!」


 母が子供たちに呼びかけると「えーっ!」と不満の声が一斉にあがる。


「もうすぐ暗くなっちゃうからね。暗くなる前に帰らないと……」


 子供たちの顔を見回す母。


「かえらないと……?」

「どーなるのー……?」


 不思議そうな顔した子供たちを見て、にやりと笑った。


「おゆはんが食べられませんっ! みんなママのごはんは好きー?」


 すると今度は一斉に「すき!」と元気な返事。


「んふふ、良い返事だ。じゃあ、ばいばいしなきゃね。はーい、みんな、またねー」


 子供たち、それから親たちに挨拶をして、母が紗弓の手を取る。


「さ、いこっか。いやー、やっぱり子供は可愛いねー。また先生やろっかな。……どったの?」


 母が顔を覗き込んできた。


「ううんっ、なんでもない」


 我に返り紗弓は答えて歩き出す。

 それでも公園を出るまで、子供たちの片す輪っかを時折振り返りながら気にしていた。けんけんぱ。さっきからそれが頭の片隅を刺激する、喉に引っかかった魚の小骨みたいでしょうがない。


 考えて考えて、家の前に着いて「あっ」と小骨が取れる。

 母を急かし玄関の鍵を開けてもらうと一目散に自室に向かった。

 部屋に飛び込みパソコンを起動、自分で収集したアイドルの映像集から一つの動画ファイルを探し出す。


 來倉くくららく、もう二十年も前の男性アイドルであり紗弓と同系統の異能力、つまり脚力強化を持つ。

 デビューが少し遅めで、活動期間は三年程度、最高クラスはC。


 すっかり忘れていたが……彼の必殺技がすごかったから、保存しておいたのだった。

 ライブ映像を早送りし、その予備動作に入ったところで止める。

 楽は片足だけで立っている。

 再生。

 急加速し蛇行しながら相手に突進、もう片方の足で刺すような蹴り。

 ぶち込まれた相手の女性アイドルは一溜まりもなく宙を舞う。


 技の名は──〝セブンス・ブリット〟。

 弾丸、そう呼ぶ程に速く。そう呼ぶには曲線的。


 その秘訣は、瞬間的に行われる七度の跳躍である。

 先の跳躍による加速が費えるより前に、素早く小刻みに七回の跳躍を重ねることで、爆発的な加速を為す。

 このとき、体重移動によって進行方向を操ることで、身体を相手に向けたままの姿勢を保つ。そうして描かれる軌跡は、跳躍が七回であることも相まって、まるで北斗七星のよう。


 紗弓は脳内でパズルのピースがはまっていくような気分だった。そうして浮かび上がるのは、勝ち目というイラストだ。だが、果たしてそれは本当に、勝ち目だろうか。


 今度はスマッチを起動させる。

 少し迷ってから凪子に、今思いついた作戦を記したメッセージを送る。黄子や葉波耶よりも冷静な目で見てくれるだろう。返事はすぐに来た。


「面白い。勝率は──もちろん計算式なんてものはないから、これはボクの体感でしかないことを一応言っておくが──、二割だ。これでも高めに見積もったつもりだよ」


 返事をしようとしたところで、二通目が来る。


「ただキミは、ゼロじゃないならやってみる価値があるっ、とでも言うんだろう」


 お見通しだった。

 なんだか照れくさい。


「……あ」

 と気付く。最後に「まぁがんばれ」とあった。


 意外、けれど、とても嬉しい。

 紗弓は凪子への返信はやめて、プロデューサーに宛ててメッセージを送ることにした。


「衣装の、ご相談がありますっ。あと来週の頭辺りで一日レッスンルームが使えたらと──」

アイドル名鑑ミニ

【來倉 楽】

くくら らく

 クラス:C(当時) 事務所:AKG(アカギ)

 性別:男 年齢:21(当時)

 誕生日:4月3日

 性格:マイルド

 趣味:食べ歩き

 衣装モチーフ:オオカミ

異能力〝狼牙ホロケウ

  脚力を強化する。

 攻撃力:C

 防御力:─

 俊敏性:B

 射程:─

 持久力:B

 成長性:D

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