シカクイ仲間
「ただいま」
「お、お前まで…」
妻も四角くなっていた。ショックのあまり次の言葉が出てこない。
「あなたこそ、ちょっと丸くなったんじゃない?」
妻の言葉が理解できずに、ミラーの前でおなかの肉をつまんだあと、赤くなったおなかを軽くさすった。
「ふん、太っているのは前からじゃないか」
マッサージをするといいと、友人に勧められて、やってみたのが2年半前。友人はみるみる痩せていったが、それはマッサージではなく脂肪吸引をやっていたと噂が立った。効果がないとわかってからも何となくおなかをさする癖がついてた。
すると、体の内側、しかもだいぶ奥のほうに、固い芯のようなものを感じた。
「俺も、四角い人間の一人だったのか」
四角い体の上に肉が付いて丸みを帯びて見えていたことを知ると、台形の部長も、四角いカップも笑えなかった。
四角い顔の妻はまるで別人だった。
「今日は、何かあったのか?」
「町内会の奥田さん」
「ああ、また何か言われたのか」
少し甲高い妻の声に耳を傾け、「うん、うん、そうだね」と言っていと、妻の体の角がとがってきた。
気付かれないようにそっと体を離した。
「ねぇ、今度の連休、旅行に行かない?最近行ってないし」
「今からだと、国内だな」
「私、北海道に行きたいの」
旅行が具体的になってくると、妻の体は丸みを取り戻してきた。
「丸くなったね」
そう言うと、妻は嬉しそうにうなずく。
「じゃあ、私、調べておくわ」
嬉しいことがあると角が取れて元の姿に戻るのかもしれないと思った。
その後、料理の腕が上がったとか、若く見えるとか、立て続けに褒めてみた。
妻はコーヒーのお代わりを注ぎに立った。
キッチンから、鼻歌を歌いながら私に近づいて来る。どんどん丸くなり、私の腕の中で球になってしまった。
私は怖くなって球になった体をたたいてみた。
「痛いわねぇ」
いつものサイズに戻った妻を見て、一安心した。
「そんなに見つめないでよ」
もう一度、まばたきをすると、妻からのメールだった。
「起きてよぅ」
「夢か」
キッチンでいつもの鼻歌を歌う妻の、ふっくらとした後姿を見て安心した。
「おはよう」
「おはよう。もう、何度もメールしちゃった」
「たまには起こしに来いよ。広い家でもあるまいし」
「そうね」
そう言って、嬉しそうに妻が近づいてきた。
思わず一歩下がり、いそいそと会社へ向かった。




