07:初依頼
翌日。
「知らない天井だ」
2回目となるこの台詞も前回言ったのがどこか遠い昔のような気がする。元々地球にいたときも最近は朝4時には起きてたから朝目覚めるのは早い。まぁ4時にいったん目が覚めた後、実際起きあがるまでに30分はかかっていたが。
腕時計を見ると4:30だった。そう、ここの時間と地球の時間はほぼ同じようなのだ。若干のズレはあるかもしれないがおそらく1日は24時間なんだろう。ソーラーの電波時計なので電池切れなんかはないが電波受信はもちろんのこと全部失敗している。まぁ電波なんぞなくてもそうそう時間なんてずれるものじゃないだろう。これがメイドインチャイナだったら全く信用ないがメイドイン台湾だからな。かなり信用はあると思う。しかも思いっきりぶつけてもガラスに傷すらつかない頑丈さで無駄に10気圧まで耐える耐水使用。こんなものみたらイギリス人なら「日本人はいったいどんな深いお風呂に入ってるんだい?」なんていってくるだろう。
おっとそうだ、日も変わったしためしにドローしてみるか。
「ドロー!」
すると光と共に6枚のカードが現れた。
「ふむ、1日1回ってのは前回ひいてから24時間じゃなくて0時を回ったら次が引けるってことか」
さすがに2日連続レアはなかったがカードにかぶりはなかった。いったい何種類あるんだろうか。いろいろと考えているとおっちゃんがやってきた。どうやら朝食をとってすぐ出発するらしい。
「昨日はよく寝られたか?」
「枕がなくてあんまり寝られんかったよ……」
「枕ってなんだ?」
「寝るときに頭の下に敷くやつだよ」
「へーそんなもんがあるのか、それ敷くとどうなるんだ?」
「快適に寝られる」
「ほんとか? なら欲しいな」
「別にタオルでも布団でも丸めて頭の下に敷けばいいじゃない」
「へー、そんなのでいいのか。今度やってみよう」
「枕ってのは人によって快適な高さや堅さがあるからな。なかなかに奥が深いんだぜ?」
「そういうもんなのか」
「そういうもんなのだ」
枕談議をしつつ朝食を終え俺達はさっそくクエストに出発した。ちなみにおっちゃんはハンターとしては第一線を退いているがギルドを脱退しているわけじゃないので普通にいっしょに依頼を受けることができた。今回一時的に現役復帰ということらしい。
「で、この草はどこに生えてんだ?」
「ここから西に半日程いった所に森があってな。そこに生えてる」
「へー」
「馬ならもっと早く着くが今回は歩きでいくぞ」
「OKボス」
「なんでボスなんだよ」
「気にするな。禿げるぞ」
「禿げるの!?」
それからお互いの世界のことをいろいろと話ながらのんびりと平和に歩いてた。特になんの問題もなく半日ほどで森についた。
「あんまり奥にいくとやばいのがでるから気をつけろよ」
「やばいのってなに?」
「おまえの大好きな熊だ」
「おっちゃんの兄弟か」
「俺にそんな凶暴な兄弟はいねえよ!」
「所で俺の世界だと熊って大きい音とかならしてたらよってこなかったんだけどここはどうなの?」
「そんなことしたらまずすっとんできて胃袋の中へ直行だな」
「こっちの熊おっかねえな!」
「とりあえずこの辺りにはラピしかいないようだ」
「おっ!? おっちゃんのスキルか? 便利だな」
「森の中じゃかなり役に立つスキルだぜ」
「じゃあ俺のも使ってみるか。展開」
でてきたリングをスライドし、俺は一枚のカードを手に取る。
「113セット!」
No113C:範囲探索 半径5Kの生物反応を探る。
これはすごい。頭の中に赤い点みたいなのが浮かんでくる。そこまでの距離と相手の大きさがわかるようだ。よかった虫とか木とか全生物に反応しなくて。反応してたらえらいことになってたぜ。
「おっちゃんより広い範囲が探れるけどおっちゃんみたいに永続じゃないからそこまで便利ってわけじゃないな」
「まぁ何事にも長所と短所があるもんだ。しかしおまえのスキルなんでもできそうで応用力ありそうだな」
「結構運に左右されるけどな」
そのまま警戒しつつ森の奥へと足を進める。5分くらいたったところでレーダーがみえなくなった。どうやら持続は5分らしい。
「探索スキルもう切れちまった。後はおっちゃんに任せる」
「おまえ自身もちゃんと警戒しろよ。これからもいつも俺がとなりにいるとはかぎらないんだからな」
「わかってるって。やばそうなやつが来たときだけ教えてくれ」
そういいつつさらに森の奥へと足を進めていく。すると奥に池があった。湖まではいかないが直径100mはあるそれなりに大きな池だ。
「水場って動物が集まってくるんじゃね?」
「まぁ動物は集まるが魔物は別に水場に来るってことはないぞ?まぁ水中に住む魔物もいるが」
「ほえ?なんで魔物はこないの?」
「魔物はそもそも食事を取る必要はないんだ」
「な、なんだってー!? じゃなんで人間襲ってくんの?」
「前にもいったけどあいつらは魔力を求めてくるんだ。別に肉を食いたいってわけじゃないんだよ。ぶっ
ちゃけ何にも飲まず食わずでも生きていけるんだ。森に漂ってる魔力を吸収して生きてるからな。だから森からあんまりでてこないんだよ」
「じゃ人間が森に入らなきゃ襲ってこないってこと?」
「まぁ基本的はそうだな。ただ唯一例外として獣人達だけは普通に森をでて襲ってくることがある。詳しい理由まではわからんがな」
「獣人て?」
「ゴブリンとかオークとかそういうやつだ」
「やっぱゴブリンとかいるのか……」
「あいつらは人間を殺すことを喜びにしてるようだからな。邪神信仰のせいなのかはわからん」
「いわゆる宗教上の理由ってやつの過激になったやつだな」
「殺すと幸せとか過激すぎるにも程があるだろが!」
まぁ宗教で人が狂うのなんて地球もあんまりかわらん気がするけどな。盲信するやつはどこにでもいるってことか。でも地球じゃ神様なんて自分の中にしかいないがこの世界じゃほんとにいるかもしれんからな。やっぱその辺は違うんだろう。
池の周りを探索していると少し開けた場所があった。
「どうみてもネギです。本当にありがとうございます」
そこにはネギがたくさん生えていた。
「誰にお礼いってんだおまえ」
「幸運を授けてくれた女神様にだよ」
そんなことをいいつつネギをどんどん引っこ抜いていく。全部はとらずとりあえず15本程鞄の中に入れておいた。
「あとはリアリク草か」
「あっちのほうだな」
「わかんの?」
「まぁついてこい」
そういっておっちゃんの後をついていく。しばらく歩くとなんかウサギみたいなのが集まって一心不乱に草を食べている。
「ラピはリアリクの葉っぱが好きなんでラピを探せば大抵そこにリアリクがあるんだ」
「なるほどな。おっちゃん物知りだな」
「こんなのハンターの常識だぜ」
どうやら色々と知らないといけない常識やセオリーなんかがあるらしい。30からはじめる保健体育じゃなく30からはじめるハンター人生とか誰得だよ!俺だって保健体育のほうが良かったよ!
「ところでこのラピはどうする? 葉っぱとったら怒らないかな?」
「別に取らなくても近寄ると警戒して襲ってくるぞ」
「ずいぶん凶暴なウサギだな!?」
「とりあえず俺は見てるからまずはおまえだけでやってみな」
「わかった」
おっちゃんは手伝ってくれないらしい。まぁいっしょに受けたっていっても俺のための付き添いだしな。俺はそこら辺の石を一つ拾う。そして群れの一番隅っこのやつに全力投球する。
ブチッ
うん、なんだ、ウサギの頭がなくなっちゃったね。命中したことにも驚いたけど威力がまずおかしい。これが身体補正というやつなのか。突然のことに驚いてラピ達は一斉に逃げ出した。
「なんか逃げちまったぞおっちゃん」
「そりゃあんなの見せられたら逃げるだろ。でもよく気づいたな、ラピは普通遠距離から弓なんかでしとめるんだ。それなりに近接戦闘の経験を積んだやつじゃないとまず近寄ると攻撃を喰らっちまう。特にハンター成り立ては近寄って逆に怪我させられるなんてことがよくあるんだ」
「だって近寄ったら角で刺すっていうから」
「弓も持たずにどうするのかとおもったがまさか石を使うとはな…普通の新人なら突っ込んでいって刺される。腕の立つやつならそのまま切り伏せる。頭のいいやつは事前に調べて弓をもってくる。おまえはそれのどれでもない発想だ。その発想力はハンター向きだな」
「じゃあ剣がヘタな弓使えないやつはどうすんだ?」
「そういうときはまぁ気づかれずに風下から近寄って槍なんかで刺したり、弓の使える仲間を連れて行くとかだな。別に1人でしか戦っちゃいけないなんてルールはないからな」
「なるほどね。ところでこの頭のないウサギどうする?」
「今日の晩飯にすればいい」
「捌いたことないんでまかせる」
「ラピも捌けないとかどんな生活してきたんだよ」
「少なくともこんなサバイバル生活なんてしたことねえよ」
血抜きした後、おっちゃんは華麗にラピを捌いていく。うまいもんだなぁと感心しつつ俺はリアリク草を集めていく。ラピのためにこちらも全部はとらず15本程集めて鞄に入れておいた。
「結構奥まできちまったな。この暗さで今から森の外にでるのはきびしい。さっきの開けてたとこで今日は野宿だ。ついでに枯れ木を集めておけ」
「おっけー」
「おっけーってなんだ?」
「了解ってことだよ」
そしてそこで俺は人生初めての野宿を始めるのだった。