68:闘技会
「直前にも程があるだろ!! 申し込み期限明日じゃねえか!!」
と叫んだのは2日前。今日は大会当日である。俺はと言えば色々と調査をしてそれなりに忙しい日々であった。ちなみに他のメンバーは家で子供たちの護衛だ。とはいっても襲われるようなことはなく、平和そのものだったが。
「キッドさんは本当に出られないんですか?」
「出たところで俺に何の得もないしね」
そう、全く利点というものがない。騎士になれる……いや、騎士になる為の試験が受けられるとか、俺からしたら「馬鹿じゃないの?」の一言に集約される。
騎士なんて窮屈なものを目指してないし、金にだって全く困っていない。ただ強いやつと戦えるってだけが利点というのならば、それが利点として適用されるのは戦闘狂のレアンだけだろう。つまりここで戦ったとしても俺に1ミリたりとも利点がないのだ。
「出たら絶対優勝してるのに……」
そんな残念そうなコウの声が聞こえる。そんな大会よりも子供達の安全の方が万倍大事だ。
「私も見に行きたかった!!」
「私も!!」
「あらあら、あんな雑魚共に苦戦した貴方達が見ても仕方ないでしょう? それより苦戦した罰として今日から訓練を少しきつめに――」
リナとレナが愚痴った瞬間突き刺さるメリルの言葉に、リナレナは一瞬で反応してその場を逃げだした……が、一瞬で捕まった。逃げるのを予測していたのか地雷のように出口に魔法陣が敷かれており、それに触れた瞬間身動き一つ取れなくなっている。
「し、師匠ひどい!!」
「鬼!! 悪魔!! メリル!!」
「ふふふっなかなか面白いことを言いますわね」
この状態にもかかわらず、メリルに対して悪態をつけるリナレナも相当神経が図太いようだ。
「キッドお父さん助けてー!!」
「殺されるー!!」
メリルに引きずられていく二人を見て、俺は思わず両手を合わせて拝むのだった。
☆
「ただーいまっと」
「お帰りなさい」
夕刻。まさにここが我が家と言わんばかりの態度で、真っ先に帰ってきたのは見学に行っていたミルだった。その後ろにレアンとドクが続いて入ってくる。見る限り怪我はないようだ。
「どうだった?」
「予選は楽勝だった」
「ああ、だが何人かヤバそうなのがいたな」
「へえ。それで奴らの接触はあったのか?」
「いや、視線は向けてきてたが、直接はなかった」
「あたいの方も見てたけど、あいつに接触している奴はいなかったよ」
どこからかこちらを見張っているのか、それとも自分達の偽造AFの性能に絶対の自信を持っているのか。これでドクが予選落ちしていたら、一体どういう反応をしたのだろうか。ちょっと気になる。
「ところでこっちはどうだったんだ?」
「平和そのものだったよ」
そこからリナ、レナコンビは除かれるが。あそこだけ局地的に地獄だったようだからな。訓練を見てたドクの奥さんが青ざめる程には。
「そういえば、あいつと当る前にレアンとドクが当ったらどうするんだ?」
俺のその言葉にレアンとドクは黙って視線を俺から逸らした。こいつら……考えてなかったのか。
「場合が場合だし、当ったらドクに譲ろう。俺の方は特にそこまで、この大会に執着しているわけじゃないからな」
「悪いなレアン。今度酒奢るから」
どうやらレアンはドクに勝利を譲るようだ。まあこの二人は戦うだけならいつでもできるから問題ないだろう。
「それでやばい奴ってどんなのがいたんだ?」
「なんか金ぴかのど派手な鎧を着た騎士がいたんだが、見た目に反してあれは相当できる」
「かなり手加減してたみたいだが、それでも圧倒的だった」
この二人がそこまで警戒するとは余程の……あれ? なんだろう。なんとなくその存在に心当たりがあるんだが……まあきっと気のせいだろう。そして翌日、本戦が始まった。
☆
本戦が始まるもドクとレアンは順調に勝ち進んでいた。一流どころの相手ばかりだが、現在のドクとレアンを相手にするには少々厳しかったようだ。元々普段相手にしているのが世界最強クラスの化け物だけあって当然の結果ともいえる。
そしてついにドクとエスティオが相見えることとなった。
『さあ、注目の対戦です!! あの伝説の剣王ドクトゥスと優勝はするが、騎士にはならない戦闘狂、凶剣エスティオの対決です!!』
スピーカーのような風の魔導具により、闘技場内に実況の声が木霊する。実況しているのは道化師を思わせる格好をした男性であった。キッドがそれをみたら、恐らくそれだけでテンションが下がっていただろう。
「漸く戦えるな。待ちわびたぞ剣王」
「お前は殺す。絶対に」
ドクは普段の温厚な姿からは想像も出来ない程の凄まじい殺気をエスティオに浴びせる。それは娘の命を狙われた親としての本能。
「ん? なんだ、娘は死んだのか? 一応5日は持つはずだったんだが……」
エスティオのその台詞にドクは一瞬我を忘れ怒りにのまれた。そして始まりの合図と共にエスティオに切りかかった。
「おっと」
「なに!?」
しかし、驚いたのはドクの方だった。エスティオは本気のドクの斬撃を軽々と受け流したのだ。
「さすがにやるねえ、剣王」
(旦那並の反応速度だと!? 以前のあいつとは比べ物にならないくらい強い!!)
少々相手を見くびっていたとドクは反省する。そして全力を以って倒すべく心を落ち着かせる。
(怒りに任せていたらこいつには勝てない。冷静になるんだ)
「こないのか? ならこちらからいくぞ!!」
攻守交替し、今度はエスティオが攻める。
(ここだ!!)
「おっと」
「なっ!!」
ドクのスキル『後の先』。それは相手からの物理攻撃に対するほぼ絶対的なカウンターである。しかしエスティオはそれを見てから回避した。
『何という攻防だ!! お互い攻撃が当たらない!! 二人とも信じられない速さと技量だああ!!』
実況が調子に乗り出したようで、その実況にも熱が入りだす。そんな実況の感情とは裏腹にドクは焦っていた。
(まるで旦那みてえな動き……いや、若干旦那より早い……。最近、俺の相手はどいつもこいつも化け物ばかりだ、ちくしょう!!)
ドクは内心一人で愚痴を零す。しかし、それで事態が好転する訳でもない。
「どんどんいくぞ!!」
エスティオは連続で切りかかり、ドクもそれに応じてカウンターを返すが、エスティオはさらにそれに対してカウンターを放つ。さすがにカウンターにカウンターを合わせられれば、ドクとしても完全に避けようがない。しかし、わずかだが体をひねることにより致命傷は避けていた。それは長年の経験からくる勘で、全力でカウンターを放たず、カウンターのカウンターを避ける為にある程度力を抜いて技を放っている為である。全力反撃すれば死ぬのは自分になるとドクは本能だけで理解していたのだ。しかしそれはこのままでは勝てないことを意味していた。
「糞!!」
度重なる攻撃に目に見えてドクの傷が増えていく。致命傷には程遠いが、それでも少なくない出血だ。このままではじり貧なのは目に見えている。
(このままじゃまずい。どうする…… しかし旦那クラスの化け物がそうそういるか? そもそもそんな腕なら最初から人質なんて取らなくても、普通に戦いを挑めばいいはずだ。万が一を考えての策だとしても、それほど慎重な男が日中から家を襲うなんてのは策として杜撰すぎる)
相手の強さに直面し、ドクは逆に冷静になり相手の行動の不自然さに気が付く。
「どうした? 早くしないと娘が死ぬぞ?」
へらへらした顔でエスティオが笑う。
(そういえばこいつはエミリアが助かってることを知らなかったか。しかしこいつは何故、執拗に挑発してくるんだ? 俺の冷静さを失わせる為か?)
冷静さを取り戻したドクは慎重に様子をうかがう。実際に娘が人質にとられたままだったとしたらこうはいかなかっただろう。
(そもそもこいつはエミリアを人質にではなく殺そうとしていた。それでこいつに残るのはなんだ? なんの利点がある? 考えろ……旦那みたいに……)
ドクは普段滅多に使わない思考をフルに使う。それまでの相手の行動から相手の情報を読み解くのは強さの一つである。
(この不自然さは間違いなく奴のスキルに関係しているはず。殺して何かを奪う? なら最初から人質とする理由がない。わざわざこんな舞台で戦う理由……人の目? 観戦者? いや、それならそもそも人質が必要ない。くそっ!! 俺には旦那みたいに簡単に推測できねえ!!)
「こないならこちらからいくぞ」
「くっ!?」
考えごとをしているドクは襲い来るエスティオに防戦一方となる。
『互角の戦いと思われたが、気づけば一方的な展開になってきているぞー!! 凶剣の猛攻に剣王は後がない状態だ!!』
(考えてちゃだめだ。今は冷静に、無心になって戦いに集中しないと――――――)
後の先にてカウンターをとると、エスティオは避けるどころか、わずかだが腕を傷つけられた。
(なんだ? 急に遅くなった?)
「ちっいいのか? 本当に娘がどうなっても!!」
(何を焦っているんだ? しかもまだ頑なに挑発してくる……気にするところが違うだろうに。しかしさっきの攻撃と今の攻撃。俺に違ったことといえば――そうか!! それなら奴の行動も意味がわかる)
「お前のスキル。対戦相手、もしくは自分を見ている者の感情を力に変えているんじゃないか?」
「!?」
ドクのその一言にエスティオは初めてあからさまな動揺を見せた。彼が自身の能力を見破られたのは初めてのことだったからだ。
(馬鹿な!! 何故わかる!? こんな能力があると、どうして想定できる!?)
エスティオは心底焦った。実際、世間一般に知られているスキルという概念からすれば、出鱈目もいいところな能力である。故に今までユニークスキルとはばれてもその内容まで理解した相手はいなかった。ドクが見破ったのは、偏にキッドという規格外の存在を目の当たりにし、どんな出鱈目な能力でもスキルとしてならあり得るという従来の既成概念を壊した考えが出来るようになったからだ。
「なるほど、よく考えたものだ。相手から恨まれるほど自身の力があがるんだから、そりゃ人質を殺しても問題ないわな」
図星を差されてエスティオは表情を曇らせた。実際、娘を人質に取れればそれをネタにドクを公開処刑し、取れなければそのまま娘を殺して恨まれることにより能力を上げ、その上で人目の多い大会で殺すという幾重にも罠を重ねた作戦だった。実際エスティオの能力は自身に向けられる感情が大きい程、自身の身体能力が上がるというものである。闘技大会の観客等は一人一人は大した感情ではないが、数が多ければそれだけ大きな力を得ることができる。そして一番強い感情とは恨みである。それ故にエスティオとしては今回の策はまさに必勝とも呼べるものであった。
「……例えそれがわかったところで、お前の娘にかかった呪いが解けるわけではないのだぞ?」
極めて冷静な振りをしてエスティオが告げる。そう。ドクの娘が現在、想定通り呪いにかかっていれば、現時点でエスティオの勝利は揺らがなかっただろう。かかっていれば。
「あー非常に言いにくいんだが……」
「なんだ?」
「もう呪いは解けてる」
「は?」
「エミリアは元気に走り回ってるよ」
「ば、ばかな!? どうやって解いたというのだ!? あれはユニークスキルでもなければ、解呪する術がない代物だぞ!?」
「やはり、最初から解くことができなかった訳だ」
その言葉にエスティオは内心舌打ちをする。口を滑らせたおかげで、本当に呪いが解けていようがいまいが、ドクが遠慮する必要がなくなった為だ。それは当然である。何せエスティオのいうことを聞こうか聞くまいが呪いは解けないと言ってしまったのだから。
(旦那がいなければ確かに負けていたかもしれないな)
キッドがいなければ間違いなくエミリアは助からず、自分も殺されていただろう。ドクは内心キッドに感謝する。
「とりあえずお前は殺すぞ」
殺すと宣告するもそれに反してドクの気はどんどん小さくなり、刀を鞘へとしまう。大きく広げていた気力感知範囲を己の刀が届く間合いにのみ限定することで、その精度、感覚は何倍にも研ぎ澄まされている。そして心は落ち着き、無心となっていく。その姿はまさしく明鏡止水を体現しているといっても過言ではなかった。
「糞っ!! なめるなよ剣王!!」
あまりの緊張感に物音ひとつしなくなった会場で、エスティオは冷静さを失い、遮二無二にドクへと切りかかる。スキルがばれたといってもドクの恨みが全く無くなる訳ではないし、ここには大勢の観衆もいる。勝てる要素は十分にあるはず。
「あ?」
そんな期待をしていたのだろう。だがそれがエスティオ最後の思考となった。
まさしく一閃。観衆が一筋の光が走ったと思った時、既にエスティオの首は宙へと舞っていた。瞬きするよりも早く放たれるそれは、ドクの持つ『後の先』のスキルと居合という技術が合わさった究極のカウンター抜刀術。それはまさしく必殺の一撃と呼ぶに相応しく、丁度桜のような花弁が会場に舞い散る中、繰り出されたその神閃とも呼べる一撃は、会場内の見るものを凡そ一人残らず魅了した。
「奥義、花嵐と名付けよう」
自身の技に花にちなんだ名をつけ、ドクは刀を鞘へとしまう。カチンという納刀の音が響くと同時に静寂に包まれた会場が、まるで止まった時が動き出すかのように大歓声に包まれた。
『決まったああああああああ!! 何という一撃!! まさに一閃!! 剣王の名は伊達ではなかったあああああああ!!』
それまでの静けさが嘘のように実況は大絶叫する。その冷めやらぬ興奮は会場も同様であり、まるで闘技場全体が揺れ動いているかのようであった。
「すげえ技だったな!!」
「すげえ技ってお前見えたのかよ?」
「見える訳ねえだろ!!」
そんな観客の声が飛び交う中、ドクは達成感にあふれて控室へと戻り、そのまま選手専用の会場見学席へと足を運んだ。
「やったじゃねえかドク」
「おう」
席で待ち構えていたレアンがドクにねぎらいの声をかける。その顔は若干興奮気味であり、試合を見ていてドクと戦いたいと思っているというのは容易に想像がついた。
「すげえ技じゃねえか。あれくらったらさすがに俺も死ぬかもしれんな」
「お前ならぴんぴんしてそうなんだが……」
ドクはレアンの感想に率直な意見を返す。どうやってもドクは防御特化のレアンと相性が悪いのだ。だが今回の場合はレアンの予想が正しい。防御特化とはいえ、オーバーキルの威力で首を切られれば、落ちないまでも間違いなく首を半ば以降までは切られる。つまりいくらレアンといえどもあれを食らえば間違いなく死んでしまう。だがドクはレアンへの苦手意識からそれに気が付かない。それはレアンが仲間であり、命のやり取りをする必要がないという無意識化での認識なのかもしれないが。
「しかし、このままいけば決勝は俺達になりそうだ。あいつも倒したことだし、これで気兼ねなく戦えるな!!」
そういって興奮するレアンにドクは、「いつもやってる訓練と何が違うのか」と言いたい気持ちを抑え、苦笑せざるを得なかった。
「俺の次の相手はこれの勝者――ってあいつか」
ドクは意識を切り替え、舞台へと視線を移す。そこには昨日、キッドに説明する時、レアンと二人でやばい奴と評した金ぴか鎧が立っていた。
『先程の戦いの興奮冷めやらぬうちにまたしても注目の対決!! 剛剣ドレイクと謎の黄金の騎士ブロント!! 剛剣ドレイクはみなさんもご存じのとおり、この大会でも上位常連の剣の達人です。対する黄金の騎士ブロントはその全てが謎!! しかしその強さは圧倒的です。この二人の対決は果たしていかなる決着となるか!?』
「どうみても鈍らなんだがなあ」
黄金の騎士の剣を見てドクが一人ぼやく。その剣は形が歪で、刃の両側にとげのような突起がいくつか見られる。どうみてもその辺りの鍛冶見習いが練習で作ったような剣にしかみえない。
「それで勝ち残るってことは相当強いってことだろう?」
「まあ確かにそうだな」
そうこう言っているうちに試合が開始された。試合は互角になるという序盤の予想を覆し、剛剣ドレイクが一方的に押す展開となった。
『これは思わぬ展開となりました!! ドレイク選手開始と同時の猛攻!! ブロント選手まさかの防戦一方です!!』
そう。黄金の騎士ブロントは予選では殆どの試合を一撃で決めてきたのだ。その圧倒的な強さに誰もがここまで一方的な試合を想像していなかった。
「だが……」
「ああ、全く効いてないな」
ドクとレアンが言うようにドレイクの攻撃は全てブロントによって捌かれていた。
「!? 馬鹿な!!」
『なんだあ!? 剣同士が当っているはずなのに、剣の音が全く聞こえないぞ!! これは一体何が起こっているんだあ!!』
剣が触れた瞬間、その衝撃を全て吸収しながら同じ速度で剣を引き、まるで流れるように相手の剣を受け流してコントロールする。それはまさに神業とも呼べる技術だった。
「お前、あれできるか?」
「出来んこともない」
レアンの問いにドクはぶっきらぼうに答える。同じように防ぐことはできる。だが自身のスキルも無しで、音も立てずに捌き続ける等、およそ人が出来ることではない。
(まさかあいつも俺と同じようなスキルの持ち主? いや、もっと上の能力か?)
ドクがそんな疑問を持つのも当然だった。
「糞っ!! 化け物め!!」
圧倒的技量差を見せつけられたドレイクは冷静さを失いつつも猛攻を続ける。止まればその瞬間負けるのがわかっているからだ。だがスタミナがそうそう持つわけがない。特に全力で動き続けるのはせいぜいもって数分といったところだろう。
「え?」
若干ドレイクの剣筋が鈍ったと思った瞬間、ドレイクの剣はブロントの剣に吸い寄せられるように巻き取られ、そして音も無く宙を舞った。
「っ――参った」
己の剣が地面に落ちるのを茫然と見届けると、ドレイクは一言そう呟いた。その瞬間、再び闘技場に大歓声が響き渡った。
『決まったあああああ!! 接戦になるという当初の予想を覆し、黄金の騎士ブロント選手圧勝!! これは次の剣王との対決も見物です!!』
「お前、あれに勝てるか?」
「……」
レアンの質問に対してドクは答えない。相手の戦いを脳内でシミュレートするドクには、レアンの声も絶叫する実況の声も聞こえてこなかった。ドクもまさか剣でここまで強い奴がいるとは予想もしていなかったのだろう。だが、心にあるのは冷めやらぬ興奮だけである。純粋に自分と互角以上の技量を持つ剣士との戦い。剣王と呼ばれ久しく無かったことにドクは心を躍らせる。自分の新しい剣技はこれほどの相手に通じるのか? 剣を使わないキッドやレアンでは試せない世界がそこにはあった。
「へっ人のこと、どうこういうけど、お前も十分戦闘狂だよ」
不敵にほほ笑むドクを見て、レアンは思わずそう零すのだった。
☆
『さあ、ついにやってきました剣王と黄金の騎士との対決!! 果たして最強の剣士はどちらか!!』
その後、レアンは無難に勝ち上がり、残るはレアンとこの試合の二人のみとなった。
「アンタの戦いは見せてもらった。その技量、よくぞここまでと感心する。一体どれだけの修練を積んだのやら……同じ剣士として尊敬するぜ」
「私は剣士ではない」
「なに?」
「黄金の鉄のかた――――ごほっごほっ……騎士だ!!」
「……まあなんでもいいけどよ。なんかアンタどっかで見たような気がするんだよな。どこだったか……」
「気にするな。さあ、全力でかかってくるがいい!!」
そして戦いの火蓋が切られた。ドクは最初から居合の構えで全力である。それをみたブロントは、ゆっくりと歩きながらドクに近づいていく。
『おおっとブロント選手、無防備に歩いていく!? 一体何を考えているのか!?』
それを見たドクは内心焦りを覚える。この動きに見覚えがあったからだ。
(これは……旦那の時と同じ!!)
キッドと初めて戦った時にキッドがした行動。無防備に歩いて近寄り、ドクに先に攻撃させてカウンターをとるというものである。
(あの時とは違う。だが――いや、覚悟を決めろ!! あの時の旦那に勝つ為に俺はこの技を編み出したんだろ!!)
剣王と呼ばれいい気になっていた自分が、いとも簡単に無手のキッドに敗れた。あの敗北は自分の驕った心を洗い流してくれたと思う。キッドは家族を含めた大恩人だ。だがそれでも負けっぱなしでいい等とドクが思ったことはない。あの時のキッドに勝つ。それが恩人であるキッドの力になることだ、とドクは思っている。
(見切るんだ。相手の動きを、意思を……)
キッドとの勝負ではフェイントに引っかかり自分が先に攻撃をしてしまった。ドクのスキルは後手でなければ発動しないのにも関わらず。完全に全てにおいてキッドに上回られてしまったのだ。故に今度はその刹那を見切ってみせると、ドクはその一瞬に全神経を集中させる。
一方ブロントといえば、そんなドクを気にすることも無くずかずかと歩み寄っていく。
(焦るな。俺のスキルなら攻撃と分かってからでも間に合う)
そんなドクの焦りを全く気にもせず、ブロントは平然と刀の間合いの中へと入る。ドクが一瞬刀を抜こうと手を動かすも、それにすら全く動じない。
(なんだこいつは? 怖くないのか? この間合いでなんて余裕だ……こんな化け物が旦那以外にもい……旦那以外? ってまさかこいつ!?)
あり得ないはずだ。だがブロントの正体が想像通りの人物なら、平気でそういうことをしてくる奴だ。その光景を簡単に想像出来てしまうドクは内心焦りを覚える。
(旦那かどうかは関係ねえ。今は俺の全力でいかせてもらう!!)
迷いをふっ切るもブロントは攻撃もせず、ゆっくりと手を伸ばしてきた。
「ちっ!?」
ゆっくりと手を伸ばしているだけなので、明らかに攻撃ではない。しかし、以前キッドが使っていた技は触れられた状態。即ちゼロ距離から相手を即死させる。この相手がそれを使えないと楽観視できない。というか想像通りの相手ならその技を間違いなく使ってくる。
「なに!?」
焦ったドクは先に抜刀してしまう。が、それと同時にブロントの放つ蹴りによって抜刀した刀の柄頭を押し戻されてしまった。
「……まいった」
その次の瞬間首元に歪な剣が添えられていた。
『なんとブロント選手圧勝!! あの剣王すら寄せ付けないとはなんという強さ!! 一体だれがこんな展開を予想したでしょう!!』
うおお!! という絶叫が木霊し、それにつられるように熱のこもった実況が流れる。
「完敗だ。まだまだ俺も修行が足りねえな」
まだ刀を持って間もないドクでは太刀打ちできない相手だった。これが一年後とかであれば結果は変わっていたであろうが、負け惜しみにしかならないだろう。
握手等はしない。お互い視線を交わした後、それぞれの入り口へと歩いていく。戦った者同士、それだけで通じあっているのだ。
「おいおい、まさかお前が負けるとはな」
席に戻る傍ら、丁度決勝の舞台へと向かうレアンに会うなりドクはそんなことを言われる。
「あれはお前でも勝てんぞ。いやむしろ下手したら死ぬかもしれん。中身が俺の想像した通りの奴ならな」
「……知ってるやつなのか?」
「たぶんお前もよく知ってるやつだと思うぞ」
「まさか――」
「せいぜい死なない様にな」
そんな忠告をしてドクは去っていく。残されたレアンの顔には青ざめた表情が浮かんでいた。
『さあ、ついに決勝戦です!! 両選手とも圧倒的な強さで勝ち上がってきました。故に全く予想ができません!!』
戦いが始まる前から興奮する実況。そして大観衆が見守る中、レアンとブロントは舞台中央で対峙していた。
『無手でありながら、ここまで圧倒的な強さで勝ち上がってきました獣王レアン!! そして準決勝であの剣王をも下した黄金の騎士ブロント!! 勝利の女神は果たしてどちらにほほ笑むのか!!』
気づけば戦いっぷりと強さからレアンには獣王という二つ名が付いていた。確かにその強さは獣王の名に恥じないだろうが、キッドが聞いたら獣王(笑)等とからかわれたに違いない。
「まさかドク以外と決勝で戦うことになるはな。世の中は広い」
レアンの言葉にブロントは全く反応を返さない。剣をぶらりと下げたままレアンを見つめている。とはいっても黄金色のフルフェイスの兜をかぶっている為、見ているのかはわからないが。
『さあ、決勝戦開始です!!』
試合が始まっても両者は一歩も動かない。ちなみにレアンは元々防御特化の為、相手の攻撃をまず受ける癖があるのでいつも通りである。
「どうした? こないのか?」
レアンのその言葉にブロントは剣を地面に突き刺した。
『おおーっと!? どうしたことか、ブロント選手剣を手放したー!!』
「どういうつも――なっ!? ま、まさか……」
ブロントは右手を腰まで下げ、左手をそれとは対照的に肩の高さ斜め前方へとあげる。
『こ、これは一体何の構えなのか!?』
その構えを見てレアンの体は小刻みに震えている。まるでトラウマでもあるかのように。そして絶望した表情で固まっていた。




