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ワールドオーダー  作者: 河和時久
パトリア編
68/70

67:依頼保留

あらすじ

キッド達一行が火竜退治に行っている傍ら、王都に残るドク一行に帝国の魔の手がのびていた。

襲い来る帝国兵を子供達とメリルの活躍で退けるもドクの娘、エミリアが呪いにかかるのだった。

「無理だ。残念ながら私では治せない」


 ドクが連れてきた医療師にエミリアを見て貰ったが、やはりどうしようもないようだった。元々期待はしていなかったが、やはり落胆の色は隠せない。


「やっぱダメか」


「普通、呪の類は教会ではないのですか?」


「……無理よ」


「あそこは腐ってやがるからな。行ってもバカみたいな寄付を要求された挙句、治らなかったら信心が足りませんと言ってのけるだろうよ」


「全く……本当に人族というのは理解に苦しみますわ」


 そういってメリルは呆れた顔をする。無理もない。ドクが同じ立場だったら同じように思っていただろう。だが、これがこの国の現状なのは変えようもない事実である。


「それについては俺も同感だ。ミグード族ではこういう場合どうするんだ?」


「普通は祈祷師が星の樹の力を借りて解呪しますわ。星の樹の力があればそれこそ解けない呪等ありませんから」


「……ミグード族がどこに住んでるか知らないが、今から連れていくんじゃどう考えても、旦那が帰ってくる方が先だな」


「そもそも私達の里に人族は入れませんわ」


「そうか……」


 ドクが ダメ元で聞いてみるもやはり無理なようだ。この規格外を生み出したミグード族ならもしやとも思ったのだが、なかなかうまくいかないものである。


「俺がどうかしたか?」


「!?」


 唐突に聞き覚えのある声が突然聞こえて思わず振り返ると、そこには待ちに待った男の姿があった。

 

 







☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆








「だ、旦那!!」


 ドクの驚いたような声にいたずらが成功したかのような感情が芽生える。特にそんな気はなかったのだが。

 

「他の者はどうしたのです?」


「ああ、ちょっとした実験で俺だけ先に戻ったんだよ」


 実はとあるカードの実験で一人だけ先行してしまったのだ。まぁ実験というか遊びというか……。


No342C:謎車召喚 車輪のついた何かを召喚する。召喚した物はその場に5分間停止したら消える。


 こんなカードを使用して、出てきたのがバギーのような乗り物だったのだ。一輪車とか出られても困るだけだっただろうから、乗り物で心底助かった。幸いにもガソリンの代わりに魔力を使用して動くようだったので、ガス欠になることもなくそれに乗り、この町までぶっ飛んできたというわけだ。だがいくらオフロード用だからといって全く舗装されていない道を走り続けるのはきつかった。


 道もそうだが、バギー自体にカウルもなければゴーグルもない為、風の影響だけではなく砂利や砂埃、飛んでくる虫等を防ぐことができなかったのもきつかった要因といえるだろう。特に飛んでいる小さな虫というか、地球でいう蜂サイズの堅い虫がその場に飛んでいるだけで、こちらからぶつかりに行く以上避けるのが非常に難しい。というか無理だ。口など開けていようものなら俺の口内は今頃大変なことになっていただろう。まぁ口内じゃなくてもぶつかれば痛いのだが。要は止まっている物体に時速60kmで突っ込めば、それはすなわち60kmでぶつけられたのと変わらないからだ。万が一それが目に当たれば大惨事になるだろう。今度デパートに行ったときは忘れずにゴーグルを買って来ることにしようと密かに心に誓った。

 

「そんなことよりエミリアが大変なんだ!! ちょっと見てくれ!!」


 一応仲間のことなのにそんなこと呼ばわりするとは……ドクにはお仕置きが必要か? とも思ったが話を聞けば焦る理由もわかったので、今回は勘弁してやるとするか。俺はドクに言われるがままドクの娘、エミリアの元へと急ぐ。


「お父さん!!」


 ドクの家に到着するとコウが飛び出してきた。どうやら見張りをしていたらしい。コウは獣人らしく気配探知能力がかなり高い。家に残ったメンバーの中では、ドク夫妻の次に優れているだろう。だからといって子供を見張りに立てるのは関心できない。まぁおそらくコウのことだから自分から進んでやっているのだろうが。


 コウに連れられエミリアの元へと行き様子をうかがう。メリルの話だとどうやら呪いの類らしい。詳しく見たところで状態がわかるわけでもないので、手っ取り早く試してみることにする。

 

「ナンバー35セット」


No035UC:呪術回復 呪いを解除する。


 するとエミリアの腕に浮かんでいた痣がきれいさっぱりと消え去った。まさに問答無用のチートである。


「ん……あれ? お父さん?」


「エミリア!!」


 ドクは意識を取り戻したエミリアに抱きつく。それはエミリアが苦しいと言っても続けられたが、ローナの鉄拳により終焉した。剣王と呼ばれる男もやはり嫁には勝てないようだ。


「しかし、あいつはなぜエミリアを狙ったんだ?」


「普通なら以前のことも考えてお前を手に入れる為なんだろうが……」


「あの男、迷わず殺しに来たわよ?」


 そこだ。ドクをどうにかしたいなら、子供は生かしたままにしておかなければ人質としての効果がない。にもかかわらず殺しに来たとなれば……。

 

「と、なると考えられるのはお前に対する恨みとかだろうな」


「それなら直接狙ってくるだろ?」


「馬鹿だなぁ」


「ん?」


「すぐに殺したら恨みなんて晴らせないじゃないか」


「……どういうことだ?」


「本当に苦しめる為なら、本人を残して周りから削るべきだ。俺ならそいつの大事な人たちを本人の前で壊していくぞ」


「……やっぱあいつ旦那と気が合いそうだ」


 なぜか俺の言葉に周りはどん引きだった。解せぬ。

 

「そうだ、ドク」


「なんだ?」


「殺せなかった以上、恐らく相手から何らかの接触があるかもしれないけど、エミリアが無事なことは内緒にしておけよ」


「なんでだ?」


「相手の出方が分かるだろ? そうすれば目的もわかる」


「なるほど……わかった」


 釘を刺しておかないと、こいつは問答無用で殺しに行くからな。まぁ子供を狙われたのなら仕方のないことだが。


「まぁなんにせよ、警戒はしておいた方がいいだろう」




☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆






「ちょっとリーダー!! 置いてくなんてひどいじゃない!!」


 翌日になり、ようやく依頼に出かけていたメンバーが帰ってきた。開口一番ミルに怒られたが受け流しておいた。だれも心配していない辺り、結構酷いと思うんだ。そんなことを言ったら

 

「散歩気分で鋼殻竜狩りに行く奴をどう心配しろってんだ」


 と、呆れ気味にドクに突っ込まれた。後で殴っておこう。


「じゃあ依頼完了の報告に行くか」


 気分を変えて、俺を含めた今回依頼を受けた一行はそのままギルドへと向かった。ちなみに朝がた様子をうかがってみたがエミリアは完全復活しており、どうやら心配なさそうだ。一安心だが、また誰かが狙ってくるかもしれないので、今はドク夫妻とメリルが警戒を強めている。今のメリルを敵にまわして生きている辺り、敵は相当な手練れだろう。それに敵の詳しい目的もわかっていないのでまだまだ注意が必要だ。今回は念のため同行していたシロも付けておいたので、よほどのことでもない限り大丈夫だろう。

 


「あなたは!? 怖気づいて帰って……いえ、時間的に考えるとまだ出発してなかったのですね。まぁ火竜退治なんて普通は無理ですから怖気づいても仕方ありません。本当ならダメですが今なら特別に受付を取り消してもよろしいですよ?」


 ギルドに入り受付に行くと、ちょうど俺の受付をした受付嬢がいた。受付嬢は俺に気がつくと驚いた表情を見せると同時に安堵の息を漏らし、それと同時になぜか勝ち誇った顔を浮かべた。


「キッドさん、この女殺してもいいですか?」


「だめよフェリア」


 フェリアがさらっと物騒なことをいいだしたが、アイリがすぐさまそれを制した。さすが我がクランの良心だ。アイリになら安心してみんなを任せられるな。

 

「すぐに殺してしまっては相手は後悔もできないでしょう? ご主人様ならきっと、もっと絶望に追い込んでから殺すと思うわ」


「なるほど!! さすがアイリね!!」


 良心なんて気のせいだったようだ。しかしあんなにやさしかったフェリアが、いつの間にこんな凶暴になってしまったのだろう。最近戦闘が多かったからか? でも普段はいつもニコニコと優しくてお淑やかで、コウも随分となついているというのに……前受けた毒の影響とかあるのか? 確か獣人に影響度が高い毒だったはずだから、その可能性も否定できない。今後もあまりにおかしかったら調べてみる必要がありそうだ。


「フェリアもアイリも少し落ち着きなさい。もう、リーダーが絡むと二人ともすぐおかしくなるんだから……」


 ミル曰く、どうやら俺のせいだったらしい。

 

「ほらっ!! 報告はリーダーがするものでしょっ」


 そう言ってミルは茫然とアイリ達を見ていた俺の背中をたたく。なんかミルのほうがリーダーっぽくないか? そう思いながらも気を取り直した俺は受付嬢に依頼の報告をすることにした。

 

「引き返してきたわけじゃない。依頼には実際に行ってきた。だが依頼内容が少々言われていたことと異なるのでその確認をしたい」


「依頼内容が異なるとはどういうことでしょうか?」


「あの山にいたのは下位竜じゃない。上位竜だ」


 俺の言葉に受付嬢は固まった。


「……そ、そんなはずはありません。そもそも上位竜が人のいる場所にくるはずが――!? そうですか。それでは証拠をお見せ頂けますでしょうか?」


 固まった後、受付嬢は「ははーん」といった感じで何やら納得したように顔が綻んだ。どうやら俺たちが嘘を言っていると思ったようだ。


「脱皮後の皮ならあるけど、証拠品とはどのようなものを指しているんだ? まさか倒した素材を見せろなんて言わないよね?」


「そ、それは……確かに脱皮した皮だけでは、上位竜になったかどうかの証拠には弱いですね」


「じゃあ何をもって証拠とするんだ?」


 倒していない限り証拠にはならない。だがいたという証明をしろという。それはつまり依頼ランクよりはるかに上で、通常なら倒せないはずの相手を倒して証拠を持ってこいというということだ。悪魔の証明どころではない。


「そ、それは……」


「貴方のそれは、到底証明できないことを証明しろと言っていることに他ならない。つまりそれは絶対依頼達成にしたくないということになるが」


「そ、そんなことは!?」


 俺の言葉に後ろで控えているメンバーも剣呑な雰囲気を醸し出した。フェリアについては隠そうともせずに殺気まで発している。

 

「物騒な気配がすると思ったらお前らか。今日はドクは来てないのか?」


 一触即発のような空気の中、呆れたような声がギルド奥から聞こえてきた。確かここの支部のギルド長のダサップ? ダセップ? なんかそんな名前のマッチョだ。


「ギルド長!?」


 ギルド長の突然の登場に受付嬢はなにやら非常に驚いている様子だ。ギルド内なら普通のことだろうに、なぜそんなに焦っているのだろうか。

 

「なんか込み入った話がありそうだし、俺の部屋で話そうや」


 随分とざっくばらんだが、即座にこの場から離れるというのはいい判断だ。俺はギルド長の提案をのみ、全員で彼の部屋へと向かった。

 




「で、何があったんだ?」


「あの受付嬢から何も聞いてない?」


「ん? 何か問題がありそうなら俺にあがってくるはずだが、最近は何も相談は受けてないな」


 どうやら俺達への依頼は受付嬢の中では問題として認識されていないようだ。いや、単に保身の為に情報をストップしているだけだろう。


「そうか……あいつは仕事はできるんだが、思いこむと他のことが頭に入ってこないのが玉にきずなんだよなぁ」


 俺が事情を話すとギルド長はため息をついた。あいつというのはおそらくあの件の受付嬢のことだろう。


「お前さん達が嘘をついているとは思えん。だが上位竜ともなれば、おそらくもう人里離れた場所に移動しているだろうから確認は難しい。どうするか……」


「あーそれなんだけど」


「ん? 何かいい案があるのか?」


「話には続きがあるんだ……ですよ」


「あーそんな無理にかしこまらんでもいいぞ。面倒だし」


 そう言われて思い出したかのように無理やり使おうとした敬語をあきらめ、俺は古代竜とその後に現れた毒を吐く竜について話した。

 

「こ、古代竜だと!?」


「まぁそいつは飛んでっちゃったんだけどね。上位竜連れて」


 また来るって言ってたけど……とぼそりと最後に聞こえないように小さく付け足す。


「さすがにそこまでいくと、逆に信憑性が薄れるな」


「だよねー、俺だってそう思う。というかこれで信じちゃうやつはどうかしてる」


 キッド、あなた疲れているのよ……なんて、とあるFBI捜査官の声が聞こえてきたのはきっと幻聴だろう。だって元の作品にもそんな台詞はなかった気がするから。しかしこれが仲間内の話だったなら話は変わる。こんな荒唐無稽な話でも全く疑問に思わず「そうなのかー」ですんでしまっていただろう。


「だが考えてみれば、あまりにおかしい話だからこそ、そんな嘘をつく理由が思い当たらないというのも確かだ」


 確かにそうだろう。あまりに荒唐無稽なことを言ったところで、相手には冗談としか伝わらない。たとえば会社の上司に「空に城が飛んでたんです!!」なんて言った場合にどう反応されるのか? 大抵は優しい目、もしくは胡散臭い目で見てくるだろう。信じる人間なんてほとんどいない。恐らく相手が子供でもない限り信じられることはないだろう。

 

 しかしこれが「空飛ぶ城」ではなく「UFO」だったら? 信じる人間は少ないかもしれないが、だれも信じないわけではない。稀に信じてくれる人がいる可能性がある。何故ならUFOの場合、絶対いないと断言できないからだ。

 

 それはこの世界における古代竜においてもいえることで、滅多に見られないが一般人でもいるのでは? と信じられているというのがポイントである。そんな存在を酒の席どころか、仕事の話の時にあえてだす理由なんぞ普通はありえない。まして俺達はこの国で信頼あついドクの仲間だ。その発言にはある程度の信用があるはずだ……たぶん。


「証拠というわけじゃないけど、脱皮した皮と毒を吐く竜は持ってきてる」


「証拠になるかどうかはわからんが、一応見せて貰えるか?」


「じゃあ大きな場所はあるか? できれば人目につかないところで」


「……そんなに大きな素材を持ってきたのか?」


「まぁ……それなりに」


 なんとなく言葉を濁しつつ、俺達はギルド内部にある解体所と呼ばれる部屋へと案内された。そして人が居ないその場所でキューブから竜の脱皮した皮と毒を吐く竜を取り出した。


「こ、これは!?」


「まぁ魔道具みたいなものだと思って下さい」


 みたいというかまぁ実際スキルなんだけど、面倒なので説明は省いた。あまり能力は見せたくないが、この辺りの能力は既にシグザレストの本部長にも知られているので、支部長に知られるくらいならまぁ問題ないだろう。


「完全な竜の死体なんぞ初めてみた」


 よく考えてみたら確かに珍しいかもしれないな。こんな巨大な物を全部完全な形で持って帰るなんて、かなり難しいだろう。普通は素材毎にばらして必要な部分だけ持って帰る。だが竜クラスの敵になると、討伐するのにも人数が必要になるので、素材はほとんど余すことなく持って帰ることができるだろう。だが、ばらさずにこれを持って帰るとなると、輸送手段がまず難しい。あるかどうかわからないが、飼いならした飛竜のような航空運搬手段か、巨大な荷馬車のようなものが必須になる。だが現状どちらもみたことがないし、そうそう使える手段でもないことは確かだ。


 そう考えると、竜の肉等の大きな魔物の肉は食べるのが難しいのではないか? まず腐らせずに持ち帰るのが難しいし、魔法の鞄にしても普通は他の素材の方を優先する。よけいに入れられるのなら肉を態々持ち帰ったりしないだろう。ハンターなら武器防具の素材か、金になるものを優先するはずだからだ。


「これ傷跡が全く見当たらないんだが、一体どうやって倒したんだ?」


「秘密だ。念の為言っておくけど毒は使ってないぞ」


「……そうか。スキルについて細かく聞くのはマナー違反だから、非常に気になるが詳しくは聞かないでおくとしよう」


「物体の収納についても広めないでくれよ?」


「わかっとるよ。しかし毒を吐くとなると地竜だろう。しかもこれ程の大きさを無傷で倒すのはドクですら無理だと思うのだが……そういえばドクはどうした?」


 そこで今現在ドクの置かれている状況を話すと、支部長は顔色を変えまさに憤怒の表情を見せた。


「おかしいとは思ったんだ。あいつが自分から奴隷になるなんて……まさかそんなことになっていたとはな。何故俺に相談しなかったんだ……」


「頼んだら何とかなったのか?」


「シグザレストと法国に聖女と呼ばれる人がいてな。彼女たちはあらゆる毒や呪いを消すことができると言われている。俺はシグザレストには少しコネがあるからそっちの聖女様になら頼めるぞ」


「どれだけ時間をかけていくつもりだ?」


 俺のその言葉に支部長は苦虫をつぶしたような表情になる。当時ドクの娘、エミリアは毒にかかっていた。なんの毒かもわからずここから一ヶ月以上かけて隣国まで行き、その時居るかどうかもわからない聖女様とやらに頼む。ギャンブルにも程がある。低すぎる確率だろう。まぁ実際子供の命が助からないという藁にも縋る状況なら考えるまでもなく頼むのだろうが。


「それで襲ってきたやつに心当たりはあるのか?」


「帝国らしいぞ」


「!?」


 支部長は俺の言葉に一瞬驚いた後、やはりかという表情に戻る。


「良くは知らんが、見る限り相当昔から準備していたようだから、草の人数もそれなりにいるんだろう」


「草?」


 どうやら草では通じないようだ。


「ん~まぁ地域に溶け込む諜報員みたいなものだな」


「普通の諜報員とは違うのか?」


「普通の諜報員に必要なのは情報の鮮度と確度。だが草に必要なのは世論誘導と致命的なチャンスを得る為の裏切りだ」


「??」


 俺の言葉に支部長以外も全員首をかしげている。


「草ってのはな。潜入国で2代、3代と世代を重ねて地元に溶け込む諜報員のことだ」


 俺のその言葉に全員が絶句したような顔を浮かべる。


「昔からの住民だから、まさか他国の諜報員等と疑われるようなことがない。そして最後の最後に裏切られるんだ。怖いだろ?」


 考えるほどその存在は恐ろしいことこの上ない。情報を握られ、民衆をいいように誘導される。これが一体どれほど恐ろしいことか、こいつらにわかるだろうか。


「そ、そんなに前から入り込むって……信じられないわ」


「だがそれなら今の情勢も納得がいく。言われるまで気が付かなかったが、確かにそう考えれば全て辻褄があう」


 ミルの言葉に支部長が返す。今まで当たり前のように隣にいたはずの獣人達を、自分達よりも劣等種の奴隷として認識するようになる。普通ならそんなことはありえない。だがそれは、ゆるやかな毒のように何世代にも渡ってゆっくりと浸透していったのだろう。規模を考えれば一人や二人じゃない。かなりの数の草の先入を許しているはずだ。


「まぁ今回のドクへの対応については草が絡んでいるかどうかはわからんがな。それよりも依頼についてはどうなるんだ?」


「おおっそうだったな。この火竜の皮の大きさから考えると、確かに上位竜となった可能性が高い。まして同等の大きさの地竜を無傷で狩ってきておることから、実際に火竜に遭遇していても問題なく倒してきただろうことは明白。今回の依頼は達成ということにしておこう」


 どうやら失敗して違約金なんてことにはならないようでなによりだ。


「だがすぐにとはいかん」


「ん?」


「一応、件の場所まで調査班を向かわせて、その調査で火竜がいなくなったことが確認できてから達成とする。それまでは保留としておこう」


 まぁそれは仕方ないだろう。倒せる実力があるとわかっていることと、実際倒したかどうかは別問題だ。ギルドとしては安全確保ができたかどうかが一番重要なのだから。


「それでいいがその間、他の依頼は受けられるのか?」


「本来なら駄目だが、お前らならかまわんだろう。が、闘技会が近いから終わるまで依頼はほとんどなくなるぞ?」


闘技会……確か以前、そんな単語を聞いたようなないような。ドクが騎士になったのが、確かこれで優勝したからとかなんとか、そんな大会だったはずだ。どうやらそれなりに大きい大会らしく、その準備に追われて街があわただしくなるようだが、むしろ肉の調達なんかで依頼は増えないのか?


「お前みたいに、軽々とこんな竜を移送できるような手段を持つ奴なんていねえんだよ」


 とのこと。どうやら大型の魔物の肉というのはあまり流通していないようだ。よく考えれば普通の人はそもそも持ち帰る手段がないか。しかもあまり遠い場所にいくと狩っても帰る間に悪くなってしまう。鞄に入る量も限られるとなれば、肉より他の素材が優先されるのは仕方がないだろう。


ちなみに竜の血肉は体内に込められた魔力が関係している為なのか、かなり長い期間腐敗しないそうだ。ということでこの地竜と脱皮した皮はそのままオークションにだしてもらうことにした。皮は売れるかどうかはわからないが、上位竜へ脱皮した皮が完全に残されているのは非常に珍しいとのことなので、どこかの物好きが買ってくれるとありがたいが、あまり期待はできないだろう。


 地竜についてはまるまる一匹の為、一体どれくらいの値段になるのか見当もつかない。そもそも買える奴がいるのか? 解体するだけでも一苦労だと思うが。


 その後、一応依頼完了ということで俺達はギルドを後にしたが、ギルドから出た瞬間アイリがぽつりとつぶやいた。


「あの受付は一度絞めたほうがよいかもしれませんね」


「物理的に?」


「ギルドから出たそうそう物騒な話するもんじゃないよ。まぁでもムカついたのはあたいも一緒だから、きっと後でリーダーがえげつない嫌がらせしてくれるさ」


 アイリ、フェリア、ミルが好きに言い合っているのを俺とレアンは呆れた表情で眺めている。呆れているというか恐怖しているというか、女はこわいと心底感じているところだ。確かにあの受付嬢の態度は悪かった。最初から格下のように見下されているのは分かっていたが、こうまであからさまだとさすがにいい気分にはならない。帰り際にもどうせ失敗したんだろという感じがひしひしと伝わってきたし。まぁ確認するまで保留というのは、あの受付嬢からすれば証拠がなかったんでしょ? っていうことになる。彼女の中ではつまり俺達が失敗したと確定しているのだ。獣人が嫌いなのか、低ランクが嫌いなのかはわからないが、とりあえず俺達に対してものすごい偏見を持っていることは間違いないだろう。まぁ直接被害があったわけじゃないから今回は放っておくが、アイリ達に危害が及ぶのなら……不運(ハードラック)(ダンス)っちまうかもしれないな。


「ところでボス、これからの予定は何かあるのか?」


「俺個人としてはあるが、クランとしての予定はないな」


「だったら闘技会ってのに出ていいか?」


「出られるならいいぞ。どうやって出るのか知らんが、ドクなら知ってるだろ。帰ったら聞いてみよう」


「おおっ!! 腕が鳴るな!!」


 そう言ってレアンは嬉しそうに自分の腕を叩く。恐らく試験で支部長に負けて以来ストレスが溜まっていたのだろう。


「でも確かかなりやばい大会とか言ってた気がするから、念の為どんな大会かドクに確認しておいた方がいいな」


 確か殺しが有りとかなんとか、そんなことを聞いた気がする。簡単に言うがはっきり言ってかなりやばい。それは殺しを躊躇しないやつが出場してくるということを意味するからだ。


 なんの躊躇いもなく殺しに来る奴はかなり怖い。ほんの一瞬の油断で死ぬことがあるのだから。一時も気のゆるみが許されない大会なんぞ、出る方はたまったものじゃない。少なくとも俺はごめんだ。子供の教育にも悪そうだからコウ達にも見せない方がいいのだろうか? ただ命のやりとりそのものは知っておかないと、いざというときに固まって動けなくなる可能性もある。幼いうちから慣れさせておくべきか。悩むところだ。


 そんなことを考えながら浮かれているレアンを引き連れ、俺達はドクの家へと戻った。









☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆









「闘技会に出る?」


 帰宅早々はしゃいでいるレアンにドクが尋ねると、レアンは嬉しそうに大会のことを話した。


「おう。俺はまだまだ弱いということがわかったからな。少しでも強いやつらと戦いたいんだ」


 確かにレアンは最近ぱっとしない感じがしないでもないが、それは相手が悪いだけような気がする。まぁ支部長とはいえ俺以外の人族に真っ向から負けたのは悔しかったのだろう。


「旦那もいることだし、まぁお前なら大丈夫だろうが、相手を殺しても問題ない大会だからな。せいぜい気をつけ……といってもお前を殺せる奴なんてそうそういないか」


「リーダーはパンチ一発で殺しかけてたけどね」


 あれは魔力を纏わせたパンチだったからな。レアンは物理攻撃には強いが魔力による攻撃に弱い。だから物理一辺倒のドクでは相性が悪いだろう。


「……旦那も大概だな――ってそんなことはどうでもいいんだよ!! あいつから手紙が来たんだ!!」


 そういって手紙を渡されるも何が書いてあるのかさっぱりわからない。


「俺に大会に出ろって書いてある。あいつに勝てたら呪いを解くんだとさ」


 俺が読めないことを察したのか、ドクが手紙の内容を説明してくれた。しかし……。


「相手の目的がさっぱりわからん」


 ただ戦いたいだけなら、こんなマネをしなくても挑戦状でも出せばいいだけだ。ドクなら適当に挑発すればすぐにでも受けるだろう。無理に子供を狙った理由はなんだ?


「人質にとってドクを脅迫するのなら、最初に非殺傷を徹底するはずだが、聞いた話じゃ問答無用で殺しにきたんだろ? 万が一子供が死んでいた場合、脅迫の意味がなくなる。と、すれば相手の目的は脅迫じゃない」


 ……いくら考えても相手の目的が見えてこない。ただドクを殺すのではなく、脅迫でもない。以前は明らかに子供を利用してドクを手に入れたにも関わらず……だ。つまり以前とは違う相手?


「いくら考えてもわからんものはわからんさ。とりあえず俺はどうすればいい旦那?」


「相手の狙いがわからんから、とりあえずは言う通り大会に出てみるしかないだろう」


「わかった。それで旦那は出るのか?」


「そんな人殺し大前提のおっかない試合なんて出たくねえよ。俺は家で子供達を守る。悪いがメリルも付き合ってくれ」


「仕方ありませんわね」


 何だかんだいってもメリルは子供には甘い。言うと殺されるので口には出さないが。


「私達はどうしましょう?」


「アイリ達は俺と一緒に留守番だ。ミルは大会に行ってドクに接触しようとする奴を調べてくれ」


「了解」


 大会を指定する以上、敵は何らかの接触を謀ってくるはずだ。相手の目的がはっきりしない以上、まずは相手をしっかりと見極める必要がある。俺が行ってもいいが、一番危険なのは、直接狙われたドクの娘であるエミリアなのは間違いない為、俺はこの護衛から離れることはできない。しかし、逆に考えれば既にエミリアに呪いをかけた為に相手はむしろこれからは狙わないという可能性もある。だがあくまで予想なので、可能性が0%でもない限り安全策をとっておくべきだ。この場合一番安全なのは、臨機応変にどんな場面にも対応できる俺の傍にいることだろう。自画自賛かもしれないが、安全度という面でいえば一番高いという自負はある。今この家を襲ってくるとしたら、恐らく国家規模の軍隊だろうが容易に返り討ちにできるだろう。まぁ周りの被害を考えなければ……だが。


「しかし、大会ってもうすぐなんだろ? いきなり出られるのか?」


「まずは予選からだが、予選は基本的に始まる前日まで登録できる」


 随分と適当な大会のようだ。しかし、それなりにメジャーな大会らしいので人気はあるのだろう。

 

「ちなみに予選での殺しは駄目だぞ? 武器も自前の物は使わせてもらえない」


 恐らく参加者そのものを減らすのを避けたいのだろう。予選で大量に死んでたらさすがに次回から出場者がいなくなってしまう。それにそうすれば本戦で死者が出てもすぐに新しい顔が出てくるというわけだ。なかなか運営も考えているな。


「とりあえず明日、レアンと一緒に申し込みに行ってくる」


「大会いつからだ?」


「明後日」

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