02:王都
1階に降りるとそこには美人の奥さんをちっちゃくしたような将来が楽しみな金髪ポニテの女の子がいた。
「おうミリー、こいつがキッドだ。しばらくの間よろしくたのむ」
「はじめましてキッドさん。ミリアリアといいます。ミリーって呼んで下さい」
「ミリーちゃんね。しばらくご厄介になると思うけどよろしくお願いします」
「よしじゃあ飯にしよう」
夕食はパンとスープだった。スープには肉と野菜がはいっているようだがそれが何かはわからなかった。薄味だったがとてもおいしかった。
食事が終わって奥さんがお茶を用意してくれた。茶葉は分からないが薄い紅茶のような味でおいしかった。
「ところでおまえさん歳はいくつなんだ?」
「30ですがなにか」
「「30!!」」
おっちゃんとミリーちゃんが2人して驚く。奥さんはまぁなんていいながら若干驚いているようだ。
「20代前半辺りとおもってたんだが……」
「私も20くらいかとおもってた」
日本人は欧米人からみると若く見えるっていうがそういうものなのか。たしかに童顔と言われたことはあるが。
「30なら俺とそう歳かわらねぇじゃねぇかよ。俺がおっちゃんならおまえもおっちゃんだろが」
「おっちゃんいくつだ?」
「34だ」
「ウッソダー」
「嘘じゃねえよ!」
「34で美人の嫁さんもらって2人の子持ちとかおまえみたいなのがいるから世の不幸な男が増えるんだよ。今すぐ死んであの世で俺に詫び続けろ」
「おまえの毒舌もたいがい酷いな!」
俺達の漫才にミリーちゃんと奥さんはいっしょになって大笑いしていた。
「キッドさんて面白いね」
「なんかよくそう言われるんだがそうなのかな」
「お父さんがこんなに他の人に振り回されるのなんて初めてみたよ」
「なんかおっちゃんは初めてあったのに他人て気がしないんだよね。熊に似てるからかな」
「なんでそこで熊がでてくるんだよ!」
この世界にも熊っているらしい。
「と、ところでキッドさんはどんなスキルをもってるんですか?」
笑いすぎたせいかおなかを押さえながらミリーちゃんが聞いてくる。
「スキルってなに?」
まさかRPGのお約束の特殊な技能がこの世界にはあるのか! なにそれすげえ。超興奮すんだけど!
「あっまだ洗礼を受けてないんですか?」
どうやら教会のような所で洗礼を受けなければならないらしい。それにより個々人毎にスキルに目覚めることがあると。もちろん目覚めない人もいるらしいが大抵はなにかしらのスキルは持っているらしい。
スキルは主に2種類に分かれておりなにもなくても常時発動しているパッシブスキル、自分の意志で発動するアクティブスキルの2種類だ。この辺りはよくゲームなんかである設定そのままなのですんなりと説明を受け入れた。
ちなみにアクティブスキル持ちはほとんどいないらしい。後、希に2つ以上スキルを持つ人もでるらしいが滅多にいないんだとか。
そしてなんということか驚いたことにおっちゃんは2つ持ち(デュアルというらしい)なんだと。両方ともパッシブスキルで1つは遠距離命中補正、そのまんま弓なんかの飛び道具の精度があがるらしい。そりゃ狼の体じゃなくあの小さい頭を一発でぶち抜いてたくらいだしな。そもそも頭なんて狙わねえだろ普通。
そしてもう1つのスキルは気配察知。なんでも自分を中心に1kmくらいなら生物の気配がわかるらしい。なにそれこわい。
この2つがあることでおっちゃんはかなり有名なハンターだったようだ。ミリーが生まれた時に一線は退いたらしいが。
ハンターというのは俺が想像していた冒険者のこの世界バージョンのようだ。主に狩りを主体にしていて採取やら護衛、雑用と多岐にわたるいわゆる何でも屋みたいな職業なんだと。そしてお約束通りギルドという国家に属さないところが管理しているらしい。しかし国に属さないといいつつ国の直轄のような扱いっぽい。
「明日、王都に行くからついでに洗礼受けてくればいい。洗礼は誰でも受けれるからな」
どうやら王都とやらにいくことになりそうだ。王都はこの村から馬車で2日程にあるらしい。なんでも行商の人が明日王都に帰るのに護衛としてついていくからその次いでに俺も連れて行くとのこと。
「ウルフを素手で殺すくらいの腕があるなら護衛としても十分使えるだろ」
「えっ?ウルフを素手で!? キッドさんて強かったんですね」
「それほどでもない」
若くてかわいい女の子としゃべった事なんて無いから何を言っていいか分からず思わず謙虚になってしまった。
「まぁ俺に安心して任せてくれ。泥船にのった気分でいるといい」
「沈んじまうだろ!」
そんなやりとりをしつつ異世界初日の夜は予想外に平和にすぎていった。
翌日。
「知らない天井だ」
人生で一度はいってみたい台詞No30くらいのお約束な台詞をいって目をさます。
階段を下りるとみんなすでに食卓についていた。
「おう、よく眠れたかい?」
「おはようございます。朝食できてますよ」
朝からみてもやっぱり奥さんは美人だった。朝からすがすがしい気分だ。となりの髭がいなければ。朝食も昨日と同じパンとスープだった。そいえばインスタントラーメンを大量に買ってきてたな。後でつくってみるか。
朝食後ミリーはでかけていった。薬草をとりにいくらしい。なんでもミリーは村にいる薬師と呼ばれる薬のスペシャリストのお弟子さんなんだと。
「それじゃ俺達もいくぞ」
「いってらっしゃいあなた」
美人の奥さんに見送られながら行商の人の所にむかう。
「おはようございますロキさん。今回もよろしくお願いします」
「おお、よろしくな。こいつが昨日いってたキッドだ。結構腕は立つぞ」
「はじめまして。キッドです」
「はじめましてキッドさん。商人のランドといいます」
そう紹介してきたのはやや恰幅のいい男でいかにも商人といった感じの男だった。定期的に王都とこの村を行き来しているそうだ。その際の帰りの護衛をたまにおっちゃんにまかせているんだとか。じゃあここに来るときの護衛はどうなんだってことになるが、やはり王都でハンターを雇ってくるらしい。帰りはいつも行きに護衛を頼んだハンターが帰り賃の代わりに護衛してくれるそうだ。
ハンターが護衛を受ける場合はその移動先でできる依頼をいっしょに受けてついでに護衛をするのが普通らしく、行商の合間にその依頼を終わらせてそれが終わったら一緒に帰るらしいのだが、たまに依頼に時間がかかって帰りに間に合わないことがあるらしい。 今回のハンター達もそのようでまだ宿にかえってきてないそうだ。
「また森で迷子になってんだろう。あの森は結構深いからな。まぁよっぽど奥に行かない限りはウルフくらいしか危険なのはいないからハンターならだいじょうぶだろ」
なんだろう。なんかフラグっぽい台詞じゃね?と思いつつ俺達は王都に向けて出発した。
なれない馬車と舗装されてない道で全く快適とはいえなかったが特に盗賊にも魔物にも襲われることもなく2日後、無事に王都についた。商人の護衛ということと、おっちゃんが保証してくれるということで普通に俺も王都に入ることができた。通行料はおっちゃんが払ってくれた。
シグザレスト王国。はるか昔、魔物が大量発生しこの国に侵攻してきたことがあった。元々ここは魔物が頻繁に出没する地域だったため、所々に村があるくらいで、現在の隣国リグザール王国の一部であった。 現在の王都の場所にその中で当時この辺りで一番大きな街だったリバーという街があり、そこが魔物の大群に襲われた。リバーの長は魔物の侵攻の情報を知るとすぐさまリグルダール王国に応援要請をだした。
しかし魔物の大群が各村々を蹂躙し、もうすぐリバーに押し寄せるという時になってもリグザール王国はなんの応援もよこさなかった。リグザール王国は現在のリグザールとシグザレストとの国境に部隊を配置していた。つまり最初からリバーを見捨てる気だったのだ。たしかに切り立った山々に天然の城塞のような形となっている国境付近は防衛するためには打って付けといえたため、当時のリグザール王の判断はあながち間違いではなかっただろう。
援護もなくひたすら大量に群がってくる魔物達。圧倒的な魔物の数にもうこの街はおしまいかと思われたその時一人の戦士が現れた。当時最強のハンターと名高かった戦士は一騎当千の力と後に王国の宝剣と呼ばれる光り輝く剣を携え魔物の大群に1人立ち向かい、たった1人でそれを打ち払ったという。そして国境にいるリグザール王国の兵に対してこういった。
「おまえ達にとっての国はそこまでなんだろう? だったらそこからこっちは俺達の国だ!」
リグザール王も見捨てた後ろめたさとその戦士の常識外の強さにその建国を容認せざるを得なかった。
そしてその戦士を王として1つの新たな国ができた。その国の名は戦士の名からシグザレスト王国となった。そうしてできたこの国は今ではハンターの聖地として扱われている。世界に5人しかいない最上位の金ランク取得者のうち3人がこの国の出身とあればそのすごさは分かるだろう。
「ここが王都かぁ、なんかヨーロッパみたいだな」
もちろん実際ヨーロッパどころか海外なんていったことないっていうかパスポートすらもっていないけどな。知識で知っているだけのヨーロッパのような町並みに若干興奮しつつも周りをじっくりと観察する。
「ヨーロッパがなんなのか知らんがどうだ王都は?」
「俺のいた街よりは小さいけど田舎っぽくていい感じだな」
「ここが田舎っぽいとかおまえどんなとこからきたんだよ!」
まぁ東京や名古屋に比べればなぁ。名古屋は駅付近以外田舎だけど。
「それじゃ私は商品の積み卸しがありますのでこれで」
「あぁ、また行くときに声かけてくれ」
そういって俺達はランドさんと別れまず教会へと向かった。