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前編


――言葉には力がある。それは時に強力な"呪となり、それは"言霊"と呼ばれる。




 俺が初めて彼女に会ったのは七歳の時だった。

 父に連れられるまま謁見した、国王の愛娘で俺と同じ年の巫女姫。けれど珍しい銀の髪を持つ彼女は、およそ王族らしくない簡素な白い衣に身を包んでいた。

 そして一言も言葉を発することなく、ただ静かにそこに居た。


――あの日から五年。


 今日も"言の葉の巫女姫"と呼ばれ、王宮から離れた場所に建つ塔の最上階に隔離された彼女の元に俺は通う。


「今日は師匠と良い勝負だった」


 相変わらず彼女は声を発しない。一日中、塔のこの部屋から出ることも許されない彼女に俺は毎日、朝の出来事を語るようになっていた。

 最初こそ表情も薄かったが、だんだんと俺の話に笑うようにもなった。護衛という名目でここに来ながらその役割を果たすことはない俺にできる、それが唯一のことだと思ったのだ。


「見てろよ。明日にはきっと俺が勝つ、いだっ!!」


「こら、巫女姫様に対して何て口の利きようだ」


 頭上から突然降ってきた拳骨に俺は頭を抱えてうずくまる。背後から音もなくやってきて鉄骨を喰らわせたのは俺の父、左大臣・徳昌(のりまさ)だと振り返らずとも分かった。


「巫女姫様、倅の無礼をお許しくださいませ」


 深々と頭を下げた父に彼女はにこやかに微笑み首を振る。その仕草にホッとした様子で父は俺の頭に手を置いた。


「巫女姫様、明日のことですが……」


 不意に父が紡いだ言葉。言いよどむ父らしからぬ歯切れの悪さに息子である俺は驚いた。

 すると見るからに彼女の表情が険しくなる。けれどそれは一瞬で、すぐに柔らかな笑みへと切り替わった。

 それはいつもと変わらぬ表情に見えたが、どこか緊張しているようにも思える。けれど何より、俺の頭に乗った父の手が震えているように感じ、俺は眉を潜めた。


「……愚息でありますが、どうぞこき使ってやってくださいませ。では、失礼」


 父は俺の頭をワシワシとかき混ぜ、一礼するなり部屋を出て行った。


「何だ……? 明日って……」


「桜花祭ですわ」


 背後から応えたのは下女の百合(ゆり)だった。俺より五つ年上の百合は、巫女姫がこの塔に入った時から彼女に付いているらしい。


「あぁ……桜を愛でるっていう、あれか」


「明日は巫女姫様もご出席されるのよ」


 貴族の集まりには興味なんかない。けれど百合が発した言葉には興味が湧いた。


「本当か? なら俺も行く」


「あらあら、いつも反抗的なのに珍しいこと」


 クスクスと笑う百合と一緒に彼女も楽しげに笑っている。からかいの言葉にちょっと引っかかるところはあるが、彼女が笑ってくれるならそれでもいいと思えた。


「じゃあ、また明日」


「明日はそのまま大広間へ行きなさいね。巫女姫様には私が付き添うから」


 立ち上がった俺に百合がそう声をかけてくる。それに応えて頷くと、俺は部屋を後にした。


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