表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

第1話 冬眠休みが欲しい、そう願ったら宿題を出されました①

 

 「さむ~い」


 リビーは冷たくなった指先に息を吹きかけた。

 ホッカイロは忘れたし、お気に入りの手袋は昨夜燃やしてしまった。

 それをリビングで目撃した母親は呆れ返って言った。


「また失敗!?人間の学校に転校したらどう?手袋一つ魔法で洗えないなんて!毎日、毎日失敗ばっかり。パパの血が濃いのよ。魔法使いは諦めなさい」


 ソファに座って新聞を広げていた父親は、居心地悪そうに顔を伏せた。


「いやっ!絶対にママと同じ魔法使いになるの!」


 リビーがきっぱり言い切ると父親が顔を上げて加勢した。


「もう少し様子を見よう。まだ一年生だよ」


「あなたは、いっつも甘いんだから!今年で十六なのに、まだ空も飛べないんですよ」


 それを聞くと、父親も流石に困った顔をして上目遣いで母親を見た。


「空が飛べない?」


「ええ。箒に乗れないんですよ。今のままじゃ何もかも絶望的ですよ」


 リビーは両親の会話を静かに聞いていたが、バツが悪くなって部屋に戻った。

 昨夜の出来事を思い出して、リビーは顔をしかめた。


「だって、飛べないんだから仕方ないでしょ」

  

 一生懸命息を吹きかけても、指先はアイスクリームのように冷たくなった。

 冬の風が、びゅうびゅう吹いて心まで冷たくなった。

 

「いやな北風!」


 リビーは、登校中の人間たちに聞こえないよう慎重に呟いた。

 人間の女の子たちが通う高校は、魔法野丘まほうのおかのすぐ下にある。

 紺色のマントを頭から被っているので姿は見えないが、声は隠せない。

 昨夜遅くまで課題をしていたせいで、リビーは朝から眠くてしょうがなかった。


「冬眠休みもあればいいのに」


 冬休みはまだ先だ。

 下駄箱に着くと、ちょうど予鈴が鳴った。


「わっ、大変!一時間目は魔法薬まほうやくの授業なのに!エレン先生に怒られる!」


上履きに右手を伸ばした時、リビーは、くしゃくしゃに丸まった紙に気が付いた。


(えっ、何これ、ゴミ?)


 そのまま捨ててしまえば良かったと後悔したのは広げた後だ。


【冬眠休みの宿題を出します】


 雑な太字は、赤いインクで書かれていた。

 

「これ、私宛て?何だか本物の血みたいで不気味。冬眠休みの宿題って何?どうして、私の願い事を知ってるの?訳が分からない。でも、それより授業!」


本鈴が鳴るまでに席に着いていなければ、後ろに立たされる。

リビーは先週二回も立たされて恥ずかしい思いをした。


「男子にも笑われた!もうあんな思いはたくさん!」


 ローファーを脱いで上履きを履くと、右足の裏に鋭い痛みが走った。


「いたっ!」


 リビーが慌てて上履きをひっくり返すと、金色の物体が一粒こぼれ落ちた。


(えっ、これって砂金?)


 リビーは目を見張って拾い上げた。


「間違いなく砂金!一体誰がこんな事をしたの?まさか悪戯?」


 リビーは一センチほどの小さな砂金だけ右ポケットに入れると、皺くちゃになった紙を律儀に丸め直した。

 その時、遂に本鈴ほんれいが鳴った。


「うわーん!何で一年教室が三階なの!?普通は一階じゃない?」


 目の前にあったゴミ箱に丸めた紙を放り投げると、今度は上履きの中をちゃんと確かめて足を突っ込んだ。

 冷え切った上履きのせいで、リビーは思わず身震いした。


 「足指までさむ~い。こんな時、三階まで飛べたらいいのに。皆、飛べるのに、どうして私だけ……」


 凹む暇もなく無情なチャイムは鳴り続ける。

 七回目のチャイムが鳴った時、立たされる覚悟を決めたが、要らぬ覚悟に終わった。

 突如、二階の廊下に赤い文字が浮かび上がったのだ。

 リビーは咄嗟に足を止めて凝視した。


【こうかい、しませんか?】


突然現れた不思議な一文を読んで、リビーは目が点になった。


「えっ?今度は何?どうして平仮名?航海と後悔、どっち?」


 リビーは初め戸惑ったが、はっと気づいた。


「この文字、さっきと同じ筆跡!一体誰の悪戯?」


 リビーが首を傾げた時、ポケットに入れた砂金が、ぱあああっと光って廊下が真っ青な海に変わった。

 リビーは杖を取り出そうと慌てたが、時すでに遅し!

 残念ながら間に合わなかった。


「どうしよう!魔法野丘学園の七不思議に捕まっちゃった!」


 辺り一面、真っ白い霧に覆われて、気付けば大きな岩の上に立っていた。

 バシャンっバシャンっと水の跳ねる音が聞こえて、リビーははっとした。

 周囲を見渡すと、赤い大口を開けたサメたちが岩を取り囲んで笑っていた。


「ひっ!」


 リビーは慌てて悲鳴を呑み込んだが、バサッバサッと羽の音が聞こえて上を向くと、何十羽ものハゲタカが輪を描くように飛んでいた。

 ハゲタカたちは鋭い目で、サメとリビーを交互に見ていた。

 おこぼれを狙っているのだ。


「いややあ!助けてーー!」


 こらえきれなくなって、リビーは悲鳴を上げた。

 その時、海上に真っ白いボートが現れた。

 それと同時に深い霧が晴れて、サメもハゲタカも消えていた。

 

「思い出した!魔法使いは、休みが欲しいって簡単に言っちゃいけないんだった。無理矢理休みを取らされるから」


 リビーはボートに乗り込む事に決めたが、恐怖が去ってほっとした途端に膝がガクガク震えて、へたりと座り込んだ。


「食べられなくて本当に良かった……」

 

 リビーは幸運に感謝したが、しばらく動けなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ