3話「セーフティネットの調査」
スキル判定の日から三日後、私の住むマンションに市役所の封筒が届いた。
白地に青いラインが入った、いかにも役所という味気ない封筒。中を開けると、「スキル特性調査のお願い」という文字が目に入る。
ああ、やっぱり来たか。
あの職員さんの「少し居残ってもらっていいですか?」の意味は、こういうことだったらしい。
指定された日時に在宅しているようにと書かれていたので、私は仕方なく予定を空けた。
別に出かける予定なんてないけれど、こうして「訪問がある」と思うだけで、なんだか落ち着かない。
知らない人が家に来るのって、どうしてこうも緊張するんだろう。
午後二時きっかりに、インターホンが鳴った。
モニター越しに見えたのは、スーツ姿の男女。どちらも、いかにも公務員ですという真面目そうな顔をしている。
「忍田可奈さんですね。市役所のスキル適応課の者です。先日のスキル検査で、少し特異な反応が出まして……調査のご協力をお願いできますか?」
「……はい。どうぞ」
私は慌てて部屋を軽く片付けて、二人を通した。
男の方が端末を取り出し、なにやらデータを確認しながら言う。
「忍田さんのスキル《セーフティネット》は、どうやらこの建物全体に適用範囲が広がっているようです。つまり……このマンションが、“保護領域”になっているんです」
「保護、領域……?」
「はい。簡単に言えば、異世界から来て、精神的・肉体的に不安定な方々をこの範囲内で安全に保護する力があるようです。しかも、範囲が一定ではなく、“忍田さんが安心と感じる空間”に連動している可能性もある」
「……そんな、ゲームみたいな」
思わず口から漏れた私の言葉に、もう一人の女性職員が微笑んだ。
「でも、実際に発動しています。すでに、このマンションの周辺で異世界由来の転移者が数名確認されていて、彼らがなぜかこの場所を“落ち着く”と言って離れないんです。おそらく、スキルの影響です」
私は言葉を失った。
私の部屋の、あの狭い生活圏が。
ただの引きこもり部屋が──今、誰かの“避難所”になっている。
※
私のマンションはセーフティネットのスキルが発動する一帯として指定され、役所の『異世界来訪課』から正式に連絡が来た。保護が必要な人を優先してこのマンションに住まわせ、私が生活魔法(小)で世話をしてほしい、とのことだった。もちろん、給与も出る。ちなみに、今までやっていた在宅の仕事は、役所から会社に正式に連絡が行き、“忍田可奈さんは公的スキル保持者として異動扱い”になった。つまり、退職という形ではあるけれど、実質は役所で働くことになったのだ。
この方がセーフティネットを悪用されることがなくなり、住人の管理がしやすいとのこと。
正直、私を引き込むことで、世界的に問題になっている“異世界からの来訪者”の対応を少しでも楽にしたいんじゃないか、と勘ぐっている。
うーん、これからどうなるんだろう……。
引きこもりだった私が、人の世話なんてできるのか。
それも、異世界から来た、話も通じるかわからない人たち相手に。
マニュアルを渡されたけど、内容は“家事代行を魔法でやる”らしい。
とりあえず、魔法をちゃんと使えるようになるまで──一ヶ月間の訓練を受けることになった。




