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巻き戻りの公爵令嬢は宰相の未来を救う  作者: カーネーション


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第十六話『王太子の思い』

 王太子は机に拳を打ち付けて、書きかけの手紙にしわを作った。


 ここ最近、愛するフィオラに書く手紙の内容が芳しくない。宰相を嵌めるための計略が、まるで上手くいっていないためだ。


 息のかかった文官をことごとく排除された上、書類を持ち出せる隙が一切なかった。家柄を不問とした登用は、あまりにも横暴だと、大臣たちに上奏を呼びかけた。


 これでいくらかは、改善されるに違いない。いや、そうでなければいけない。


 宰相の働きには、目に余るものがある。幼い頃よりつまらない存在だったが、さらに融通の利かない堅物に成り下がった。


 騎士団や大臣ですら、書類に不備があれば、容赦なくやり直させた。亡くなった前宰相にも勝る細かさで、陰口を叩かれても平気を装っている。


 誰にも臆さない姿は、信頼に足る男として、王から重宝されてきた。それも王太子にはおもしろくない。父王から褒められたことなど、生まれてからこれまで一度もなかった。


 宰相は厳しく取り締まっただけで、父王の満足そうな笑みを引き出した。


 気に障るのは宰相だけではない。


 ――エリミーナ。あの女が一番、気に食わぬ。


 エリミーナは王太子にとって一目惚れの相手だった。幼い頃は笑顔が可愛らしく、柔らかな手は王太子を慰めてくれた。王太子妃にするなら、彼女しかいない。そこまで惚れ込んでいた。


 しかし成長するにつれて、エリミーナの優秀さが目立っていった。母の王妃も目をかけて、特に厳しくした。不甲斐ない息子を支える妃候補として期待していたのだろう。


 王城で過ごすうちに、エリミーナの笑顔は消え失せた。顔色はいつも悪く、身なりも流行りを追わない地味なドレスを着ていた。


 その点、エリミーナの隣にいたフィオラは違っていた。何の悩みも無さそうに笑顔を浮かべていた。いつも流行りのドレスと装飾品とで、眩しいほどに着飾っていた。抱きしめた時の匂いも格別だった。


 フィオラに他の者と婚姻をさせて愛人にするつもりだったが、エリミーナの辛気臭い顔に嫌気が差していた。隣に置くのも目障りになってきていた。


 そんな折に、まだ妃候補でしかないエリミーナが、王妃からの小言を伝えてきた。女遊び、散財はやめよと生意気に言ってきたのだ。


 王妃は王子が失態を犯すと、容赦なく鞭を振るった。その冷たい顔がエリミーナと重なった。


 きっとこのまま夫婦となれば、エリミーナは王妃のようになるだろう。王太子である夫だけではなく、不出来な子にも手を上げるようになる。


 王太子は妄想を信じて、一線を越えた。


 エリミーナを床に引き倒して、むき出しになった足に鞭を加えた。痛みで悲鳴すら上げられない姿は滑稽だった。王妃を痛めつけているような優越感に、王太子は笑みさえ浮かべていた。


 普段は何の色もない顔が痛みで歪んでいる。足に傷が残れば、王太子妃候補として選ばれることはない。


 あえて、王太子はエリミーナをそのままにして、部屋を後にした。それが徒となった。


 何者かの告発により、王太子がフィオラと関係を持ったこと、エリミーナの足に鞭を振るったことが公になった。


 王と王妃の耳に入ると、王太子は謹慎、フィオラは修道院送りとなった。


 ――告発したのは、おそらくエリミーナだ。エリミーナと宰相はあの頃から通じて、私を欺いていた。


 そもそも、王族から婚約破棄された(もしくは選ばれなかった)妃候補が、他の者と婚約することは前例がない。醜聞がつきまとい、まともな貴族であれば、手を引くはずだ。


 それが母方に王族の血筋を持つ、宰相が拾い上げた。家柄も申し分なく、他にいくらでも婚姻相手など見つけられただろうに。


 わざわざエリミーナを選んだのは、妃候補に恋慕を抱いていたからだ。


 婚約を結ぶだけでもおかしいのに、互いの仲睦まじさの噂まで広がっている。


 確かに、王城で再会したエリミーナは、心を寄せていた頃のように晴れた顔色をしていた。装飾は少ないが、明るい色合いのドレスを着ていた。


 一瞬、見惚れて、そのことを恥じた。エリミーナの表情を明るくしたのは王太子ではなく、宰相だった。


 実際、王太子と対峙した時には、冷たく固い表情に戻っていた。心を閉ざした顔はいつ見ても辛気臭く、忌々しかった。


 執務室に籠もっていると、補佐が現れた。耳打ちで伝えられる。何一つ上手くいっていない中での朗報だった。


「あの宰相も、さすがに上奏を無視するわけにはいかなくなったか」


 宰相の下に、貴族からも文官を登用する。慣例を正すこと。それは宰相側の負けを意味する。


 王太子は早速、話し合いの席を設けることにした。そこで権力や金をちらつかせれば、大抵の貴族は心を揺らす。そして、大方、王太子の思い通りに動く駒となった。


 駒を効率的に動かし、目的までの道筋を描く。


 王太子の下に、新しい文官が書類を持って現れたのは、断罪前日のことだった。

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