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巻き戻りの公爵令嬢は宰相の未来を救う  作者: カーネーション


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12/21

第十二話『二度目の婚約破棄』

 日程通りにきっかりと運命の日はやってきた。ヴァルディスから事前に手紙が来て、思い出の庭園へと向かった。


 ガゼボから見える景色は、ちょうど冬へ変わっていく過程だった。やがて木々から葉はすべて抜け落ちて、そのうちに雪が積もるだろう。季節が一周するまで、婚約は続かなかった。


 景色に目をやっていたが、エリミーナの意識はヴァルディスへ向いていた。二人とも椅子に座ろうとはしなかった。どちらも黙り込んだまま、時だけが過ぎていく。


 夢の中では、この場所で婚約解消を言い渡される。ヴァルディスの口から直接伝えられるはずだった。


 納得できる説明はなかった。それでも、二人の関係は終わる。エリミーナは結局、自分ではどうすることもできなかった。黙って婚約解消を受け入れるしかなかった。


 もう一度、同じ光景を見るかもしれないと思うだけで、恐ろしい。自分なりに考えて頑張ってはみたものの、それが結果に影響したかどうかはヴァルディス次第だ。


 休暇だと聞いていた。マントは纏っていなかった。貴族服は黒を基調にしていて、宰相よりは高貴な主人を思わせる。


 しかし服装が違うことが何の希望になるのだろう。婚約破棄が覆されると思いこむのは、単なる気休めにしかならないのではないか。


 ヴァルディスは息を吸って大きく吐き出した後、真剣な顔をエリミーナに向けた。


 眼鏡の奥の目が伏せられる。眉間に深いシワを刻んだ。


「私はここで、あなたに婚約破棄を言い渡しました」


 エリミーナは思わず、「えっ?」と声が出た。まるでヴァルディスが一度、夢でも見てきたような口ぶりをしている。驚いて固まるエリミーナをよそに、ヴァルディスは話を続けた。


「あなたは私に聞きましたね、『これまで、私に心を寄せてくださったことはありますか?』と」


 あの時を思い出して、エリミーナは目の前が滲んでいくのがわかった。許容を超えた涙がどんどん筋になって、下に流れていった。


 どうにか縋り付きたくて、たずねた言葉だった。祈りにも似た言葉がヴァルディスに届くことを信じた。


「正直、一度目の私は、あなたに心を寄せていたことに気づきませんでした。牢獄に入れられて、最後にあなたに会えた時、ようやく自分の気持ちに気づいたのです」


 ヴァルディスの瞳が揺らいで潤んで見えた。瞬きを数回すれば涙が零れそうだ。エリミーナは自ら近づいた。早くたずねたかった。


「ヴァルディス様のですか?」

「そうです」


 ヴァルディスはエリミーナに腕を回して、抱き締めた。固い胸板に顔がちょうど当たる。


「絶対に婚約破棄はしません」


 はっきりと告げられて、エリミーナは顔を歪めて泣いた。もはや、淑女の泣き方ではない。むせび泣くというのが正しい。


「わ、わたし、こわくて、この日が、来なければ、いいと、ずっと、思っていて……」


 ヴァルディスの温かな手がエリミーナの頭を撫でてくる。それでも涙は止まらない。ますますひどくなる。言葉にもならなくて、子供のように泣き出した。


 エリミーナがこのように感情をあらわにして泣いたのは、初めてだった。予知夢でも、こんなひどい泣き方はしていない。エリミーナが落ち着くまで、ヴァルディスは受け止めてくれた。


 ようやく泣き止んで、手布で顔を拭く。二人で並んで椅子に座った。


「一度目とはまったく違う展開になりましたね」


 ヴァルディスが笑った。エリミーナは今さら「一度目」という表現が引っかかった。


「一度目というより、あれは予知夢のようなものでは?」

「いや、あれは私たちの間に実際に起きたことです」

「そ、そんな……」


 夢だと思っていたから、エリミーナの心は耐え切れていた。


 夢でなく、実際に起きたこと。そう考えると、ヴァルディスは死ぬ寸前まで拷問を受けたことになる。エリミーナは金持ちの後妻となり、病で亡くなった。自分の不幸よりも、どうしたってヴァルディスの最期が気になった。


「ヴァルディス様は、あのまま死を迎えたのですか?」

「いえ。牢獄で死んだのは変わりませんが、あなたが渡してくれた短剣で自らを刺しました」


 エリミーナは口元を両手で押さえて、悲鳴を上げるのを堪えた。自死を選んだことが衝撃だった。確かに予知夢では短剣を渡していたが、疑問が残る。


 ――私はあの短剣をどうやって用意したのだろう?


 答えを考えようとすると、頭に鈍い痛みを感じた。鐘の音が耳元を巡る。頭を抱えて俯くエリミーナを、横から腕が支えた。


「大丈夫ですか? 一度に色々話すものではありませんね」

「そんなことはありません。いずれは知らなくてはならないことですから」


 それが遅いか早いかは、エリミーナは気にしなかった。 


「私との婚約を続けることに、後悔はありませんか?」


 ヴァルディスは首を振ると、「ありません」と言い切った。


「今、私とあなたはこうして生きています。これから私の身に起きることも知っています。だからこそ、私はエリミーナ殿とは離れない。そう決めたのです」


 エリミーナが一番、聞きたかった言葉だった。泣き腫らした顔に笑みを浮かべる。


「そのような考えに至った理由を話してもいいですか?」


 エリミーナが反対する必要もなかった。「どうぞお話ください」と続きを促した。

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