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アンドロイドに欲しい熱はない【2000文字】

作者: 有梨束
掲載日:2026/01/27

「カヨに任せたから」


恋人が最期に遺したのは、恋人に見た目がそっくりなアンドロイドだった。


「カヨ、今日の夕飯はロールキャベツですよ。真っ直ぐ帰ってきてくださいね」

「呼び捨てしないでって、何回も言ってるわよねっ?」

ユウの手を払い、カヨはキッと睨んだ。

「マスターのご指示で、あなたを恋人のように扱うと仰せつかっています」

「あなたは私の恋人じゃないし、マスターは今、私でしょ!?」

「いえ、僕のマスターはあなたの恋人の『ユウ』さんです」

「…もう、いいっ」

カヨは玄関に向かって、ズカズカ歩いていく。

「カヨ、お弁当を」

「いらないわ!」

ピシャリとドアを閉めて、カヨは出勤していってしまった。

ユウは取り残された玄関で、弁当の包みを持っていた。

「マスター、僕は今日もお役に立てませんでした」


『ユウ』はよく笑う人だった。

そして、カヨはもっと笑う人だった。

「カヨ、疲れているなら肩をお揉みしますよ」

「…名前で呼ぶなって言ってんでしょ」

ユウを見るカヨは、いつも厳しい顔をしていた。

「カヨの好きな豆大福も買ってありますよ」

「…大福は、もらう」

「はい。お持ちしますね」

ユウは、家庭用生活支援ロボットだ。

家事全般から、家の人間のご機嫌取りまで、忠実に仕事をこなす。

駅前にある和菓子屋の豆大福を持って戻ると、カヨの顔はもっと険しくなった。

「…いらない」

「これはカヨの好きなものですよね?」

「そうだけど、…それはユウが好きだったやつだからいい」

「でしたら、お召し上がりになった方が」

「いいの!いらない!」

さっきまで隙間ほど開いていた心が、ピシャリと閉まったことがユウにはわかった。

「かしこまりました」

豆大福を元の場所に戻そうとして、一回立ち止まった。

「カヨ、僕明日メンテナンスに行きますので、日中家を空けます」

「…そう」

「カヨは帰ってくる前には戻りますので」

「いいわよ、別に」

「いえ。お帰りなさいと言いたいので」

ユウはこういう時、キッパリ言い切る。

カヨはそれにいつも上手く反応ができない。

「…あっそ。好きにしたらいいわよ」

「はい。帰ってきます」

ユウは『ユウ』に似ていない無機質な笑顔で、そう答えた。


「お帰りなさい、カヨ」

いつものように出迎えたユウに、カヨはこの世の終わりのような顔をした。

みるみるうちに顔色まで悪くなっていく。

「なんで…」

「どうかしましたか、カヨ」

「どうしてその声で喋るのよ…っ!」

肩で息をしながら、カヨは玄関のドアに凭れかかった。

まるで、ユウから逃げるようだった。

「本日はメンテナンスに行って、声を変えてきました」

「だから…っ」

「やっとマスターの声に近いパーツが手に入ったので、交換していただきました」

「その声で喋られたらっ…!」

血の気がないカヨの顔を見て、ユウは手を伸ばした。

「カヨ?具合でも悪いですか?」

その偽物の手がカヨに届くことはなかった。

「来ないでよ、バケモノっ…!」

そこに静寂が訪れるのは、すぐのことだった。


カヨは川沿いまで、かなぐり捨てるように走っていた。

夜はまだ寒い。

そこは生前『ユウ』とよく来ていたデートコースだった。

『ユウ』は、最期までカヨのことが心配だった。

だから、アンドロイドをカヨに託した。

「カヨ、ここにいたんですね。今日は冷えるから家に帰りましょう」

有能なアンドロイドは、簡単にカヨの居場所を探して出してしまう。

「どうして…」

「僕はカヨのいる場所は、すぐわかります」

「どうして、その声にしたの…っ!」

カヨは、ユウの体を殴るように拳を突き当てた。

「その声にしたら、『ユウ』の声が思い出せなくなるじゃないっ!」

「カヨ」

「名前で呼ばれたらっ、『ユウ』に呼ばれていた全部が、上塗りされていくみたい…っ」

「…カヨ」

「そうやって、あなたはユウじゃないのに『ユウ』だから、私の覚えている『ユウ』がどんどん消えていって…、嫌よ、『ユウ』のこと忘れたくないのにっ」

カヨは額をユウの胸に擦り付けて、泣き始めた。

爪を立てそうなしがみつき方で、カヨの言葉は後から後から止まらなかった。

「名前を呼ばれるたびに、『ユウ』の声が掻き消されていく…」

「…」

「顔も、あなたの顔ばかり見るから、写真の『ユウ』が本物じゃないみたいになってっ」

「…」

「本当はもっと笑っていたのに、そうなはずなのにっ、あなたの無表情に『ユウ』が重なってぼけていっちゃう…!」

「…カヨ」

「豆大福はっ、『ユウ』がこっそり看護師さんに隠れて最後に食べていたやつなのっ」

「カヨ」

「あなたなんて欲しくなかった!私には『ユウ』だけで良かったのにっ!」

泣き崩れるカヨを、ユウは躊躇いながら抱き留めた。

そっと、指先の熱が伝わるようで。

壊れ物を触るように。

それが『ユウ』と同じで、余計に腹立たしい。

「…なんであなたまでこんな子供体温なのよ」

「マスターがマスターの平熱で設定したので」

「…相変わらず、変な所こだわってるのね。ユウは」

カヨは呆れ笑いと涙を、零し終えた。



毎日投稿27日目。お読みくださりありがとうございます!

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