2 凶獣
「……あ?あぁ〜、朝か」
毎日鳴る教会の鐘の音でナナシは今日も目覚める。レオンと買い物をした日からあっという間に1週間ほどが経った。その日に受けた依頼は3日ほど前に達成した。
「ハァ~。自分の家が欲しい…」
いつも通り、独り言を呟きながら支度をする。宿屋を出て、傭兵ギルドへと向かう。建物の扉を開け中に入る…と同時に違和感を感じる。
「………なんだ、今日は随分と静かだな?」
いつもは傭兵達の声や動きが騒がしいはずだが…今日はその傭兵達の姿すらない。
「いい朝だな、傭兵ナナシ」
「同感ですね、支部長」
困惑していると傭兵ギルドの支部長が受付の奥から顔を出してきた。軽い挨拶を交わす。
「…どうやら、事件の手がかりを掴んだらしくてな。朝一で黒鋼の奴らが飛んできたよ。『人手がいる。報酬は用意するから来てくれ!』ってな」
「なるほど…それで、その場にいた奴らはついて行ったと」
「当たりだ」
支部長の説明でこの状況に納得する。しかし、そうなると…なんというか…。
「…暇か?」
「まぁ、暇ですね。レオンを含め、友人と会話とか…暇潰しのために来ましたし」
「そうか、そうか。なら、支部長直々に暇潰しを与えてやろう」
満面の笑みで支部長は掲示板から一つの紙を持ってくる。手渡されたそれに書かれている文を読む。
「……なるほど。確かにこれは暇潰し」
依頼の内容は、ヴェルリア西の森にて複数の凶獣の討伐というもの。凶獣、それは数十年前に現れた化物達の総称だ。
「黒鋼はあくまでも街の治安維持組織だからな。それは傭兵ギルドの仕事だ。…で?受けるか?」
「…受けますよ」
「良い返事だ。…よし面倒な手続きとかはこっちでやっとくからもう行っていいぞ」
「そりゃ、ありがたい。じゃあ行ってきますね」
◆◇◆◇
凶獣は人類の脅威になりえる存在。そんな凶獣に対抗するため、人類は一つの技術を生み出した。それが、魔術【流】と【装】である。
「こりゃ、確かに討伐要請が出ますわ」
森に到着すると、そこら中からガサガサと何かが動く音が聞こえる。腰に差している剣を抜き、構える。直後、狼のような姿をした凶獣がナナシに襲いかかる。
「はい、1」
それを難なく避けて凶獣の体を一刀両断。次に数体まとめてかかってきた凶獣も左手で殴って殺し、右手で握る剣で斬る。
【流】は人の体に宿る不思議な力…魔力を体内に送り、動きの補助をする魔術。そして、【装】が魔力で体や武器を覆い強化する魔術だ。使う魔力の量で補助や強化の幅も変わる。
「2、3、4……。今度はこっちから行くぞー」
隠れて様子を伺っている蛙型を殴って潰す。小さな図体で足元を狙っている鼠型を刺す。ナナシは、その場にいる凶獣を作業をするように淡々と殺していく。
「…36。この辺にはもういねぇな。さて…」
戦闘に使った剣とは違う短剣を取り出し積み重なっている凶獣達の死体を切り裂き、中から魔力の込められた石…魔石を取り出す。これが討伐の証として必要になるためだ。取り出した魔石を準備してきた袋に詰めていく。
全ての魔石を袋に詰め終わり、さらに凶獣を探し移動をはじめる。少し歩いていると何か大きな生物が暴れまわるような音が聞こえてきた。
「…なんだぁ?」
音の聞こえる方を見てみると鋼色の体を持つ大きな蟻のような凶獣が目にとまった。何をしているのかと観察してみると、食事中らしいことがわかった。
「何食ってんだ、あれ」
ここで、不運なことに蟻型がちょうどナナシのいる方向へ振り向いてしまいナナシの存在がバレてしまった。蟻型が叫び声を上げ、木をなぎ倒しながらあっという間に距離を詰めてくる。
「…ッ!」
即座に抜剣し、攻撃に備える。蟻型は鎌のような手をナナシ目掛けて振り下ろしてくる。それを剣でなんとか受け止め、弾き返す。後方に下がり、臨戦態勢を取る。
「…並の凶獣よりも遥かに強いな」
あれじゃ、斬撃は通らねえだろうし…かと言って殴打じゃあこっちが壊れちまう。……使うか?多分5割は貯まってんだろ。
考えを巡らせていると、再度蟻型が突進してきて鎌を振り下ろす。
「チッ」
右からの鎌攻撃を剣で弾く。遅れて繰り出される左からの鎌攻撃を左腕でいなす。突進しながらの噛みつき攻撃を避ける。次々と繰り出される攻撃になんとか致命傷を食らわないように対応していく。
「危ない!ちょっ、まっ、やば!」
……やっぱ、使うか。使わねぇと最悪死ぬわ。
一つの決断をくだし、相手の攻撃に対応しながらも隙を伺うことに専念する。
右、左、上、左右同時……隙なくね?え、絶え間なく攻撃が来るんだけど…え?
「……ッ!!ここ!」
相手の動きをよく見て、ようやく一つの隙を見つけることに成功する。相手の攻撃が届かない位置まで後退、と同時に左肩辺りを指で押し込む。左腕からブォン…と機械の起動音のようなものが鳴る。
「…ぐっ、あぁ〜。未だに慣れないなこの感覚。よし…」
ナナシの変化を感じ取ったのか、焦ったように蟻型が鎌を振りかぶり突進してくる。
「っとぉ、危ねぇ」
その攻撃を左腕で受ける。しかし、その攻撃で左腕は切り裂かれることはなかった。包帯の一部だけが切り裂かれ、露出したのは鋼色の左腕だった。
ナナシの左腕…名を試作魔械義手と言う。高性能な義手として活用できる上、魔力を貯めることが出来るという特性を持っている。これにより、生まれた時に決まる魔力の上限値というものを実質的に突破することが出来る。
「さて、あんまり消耗したくないし…速攻で潰すぞ」
蟻型の反応できない速度で背後に回り込み、全力で殴る。鋼の体にひびが入る。
「…マジかよ、硬すぎだろ」
その一発で粉砕出来ると思っていたナナシは蟻型の硬さに驚きつつもさらに攻撃をしていく。ひびを狙い、もう一度同じ箇所を殴る。殴る、何度も何度も殴る。
「1、2、3…まだ壊れないのか」
蟻型はすぐ目の前まで迫っている死の恐怖に怯え動けないでいた。徐々に、破壊されていく自身の肉体を感じるたびにその恐怖は増大していった。
「これで…どうだ!?」
数十の拳を叩き込み続け、ついにその体を拳が貫き蟻型は地に倒れ死んだ。それを確認して、ナナシは左肩の辺りを押し込む。
「ん…あぁ〜。…疲れた」
久しぶりに起動した反動で疲れが一気にたまり、寝転がる。
「まぁ、いい暇潰しにはなったか…」
しばらく寝転んだ後、ナナシは蟻型の魔石を回収してヴェルリアへ帰っていった。
一章終わったら設定集とか書きたいな。書かないと作品のテンポが遅くなる。
2025/11/14 内容の修正を行いました
試作型魔械義手は別に良いことだらけってわけでもないんですよね。悪いところは数話先で解説します。
【セルフ質問コーナー】
Q.1で受けてた依頼は結局何だったの?
A.一時的な店番。ちょっと強盗を取り押さえただけで特に何事もなく終わった。
Q.凶獣って何?
A.ファンタジーでよくある魔物と同じような存在。
ただこの世界に魔王だとかそんなものはいません。
じゃあ、なんで凶獣とかおるんやろうなぁ…。
Q.蟻型ってどれくらい大きいの?
A.全長約4m。……でっか。
Q.魔力貯めて何が出来るの?
A.単純に【装】とかが更に強力に出来たり、後は頑張れば本職の魔術師に及ぶ魔術を行使できます。




